第十四話 お湯だけでいい
作業場で茶を飲むたびに台所へ行くのが面倒で、小さな湯沸かし台を作った。金属板の下へ魔力を通す線を収めて脚をつければ、鍋でも薬缶でも載せられる。それだけで用は足りるはずだった。
ところが組んでいるうちに飲み頃の熱さを保つ機能も欲しくなり、部品を増やしてみると収まりもいい。時間がたったら音を鳴らすようにすれば、茶葉を長く入れすぎずに済むだろう。
翌朝には横につまみが三つ並んでいた。
*
マリーが床を掃き終えた頃に湯を沸かし、新しい台で茶を淹れた。薬缶から蒸気が上がったら加減を変えておけば、残りも温かいままだ。もう一杯欲しくなっても席を立たずに済む。
「できたんですね」
「ああ。茶も入れたから、よかったら飲んでくれ」
マリーは箒を片づけ、自分の杯を持って椅子へ座った。
「便利そうですね。どこを動かすんです?」
台を回してつまみを見せたが、下に書いた印は自分にしか分からないので、使い方から説明することにした。
「こっちが熱さで、これが沸かすか保つか。その隣は時間だな」
「お湯を沸かすだけなら?」
「まずこっちを端まで回して」
手を伸ばしかけて止まった。今は保つ方へ切り替えてあるから、先にこちらを戻そうか。沸かす方へしてから熱さを上げても同じではある。二つの間で指を動かす俺を、マリーが覗き込んだ。
「……どちらからでもいいんですか?」
「ああ。最終的に合っていれば」
彼女は頷いて茶をひと口飲んだ。
「私は台所の薬缶を使ってもいいですか」
「もちろん」
台を見直す。湯は沸くし、温かく保つ方も音を鳴らす方も問題ない。飲む前の説明が少し長いだけだ。
俺の茶は、もう冷めかけていた。
*
その日の午後は仕入れ帰りのレオンが顔を出した。新しい看板を見たかったそうで、戸の上を読んで満足げに入ってくる。作業台の端にある物にもすぐ目を留めた。
「それは何?」
「湯を沸かす台」
「ふうん。ベルカが仕込みに使ってるのもこういう形ね」
茶を出しながら説明するとレオンはつまみを眺めた。
「ベルカなら朝の忙しいときに三つも触らないわよ」
「マリーも台所へ行った」
「あら、答えが出てるじゃない」
笑って頷くしかない。自分の家で試しておいてよかったと思っていると、レオンは杯を両手で包んで目を細めた。
「でもこのくらいに温かいのは好き。話してるとつい冷めるでしょう」
「そっちは残すよ。俺も使うからな」
「つまみを隠せないの?」
言われて側面を見ると、毎回は触らない物まで全部外へ出していた。紙を引き寄せて四角を描き、台の横へ合わせてみる。
「今度は何を足すの?」
「蓋」
「よかった」
*
普段使うつまみは大きな物を一つにまとめた。「止める」「沸かす」「保つ」と文字を添え、指先でも向きが分かるよう先を尖らせる。細かい熱さと時間を決める方は横の小蓋へ収めた。
翌日から使ってみると俺にもこちらの方が楽だった。座ったまま手を伸ばしても迷わない。次に来たマリーへ見せたところ、説明する前に薬缶を載せてつまみを回してくれた。
「これなら分かります」
「よかった」
「せっかくなのでお茶にしましょうか」
俺も杯を出して椅子を引いた。足元ではナギが台の脚へ鼻を近づけている。そこで寝そべられる前に敷物を日向へ寄せると、台と窓辺を見比べて広い方へ移っていった。
あいつの場所選びに説明はいらない。




