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その九
先のように資金を確保したぼくは、その日の午後にはもう宿泊の予約を取っていた。それほどまでに気持ちが高揚していたのである。生写真が衝撃的だったのである。
「チーフ、これがホントに愛ちゃんなんですか?」
と妹弟子はその生写真をみると、首をかわいくかしげていた。なるほどたしかにこのお写真は裏に「天堂愛」と読めるサインは書いてある。しかしいくら写真を凝視してもこの人が誰であるのかは、わかりようがない。それはつまりこちらの生写真が局部ドアップの、場末のストリップ小屋で売られているような代物だからなのである。
「これは愛ちゃんだ。ぜったい愛ちゃんだ。おれは信じる。そう信じたい」
モモヨくんは先ほど、野良猫が屋敷のユリノキに登ろうとしていたのを、とうとう目撃していた。
「やっぱりチューリップみたいな形のお花を狙ってるのかなぁ」
モモヨくんの若い後輩さんはいま現在、ありとあらゆる方法をもちいて未開封のプラッシーを探してくれている。
ちなみに樹樹どくだみなるものは、その後輩さん情報によると、けっこうどこにでも生えていることは生えているようなのだ。
「だからわたし、あしたから、すこしずつ樹樹どくだみのほうを探してみようと思ってるんです。公園の奥のほうって、森みたいになってるんでしょ?」
「うん。もともと森だったところを公園にしたらしいからね。だけど、あそこはどうかなぁ――勝手にキャンプとかやってる奴もいるみたいだけど」
「走ってるとき、見かけませんか?」
「あはははは。草なんか普段関心ないからなぁ」
「女子には関心あるけどね」
「キャオ」
「エロエロレギンスの子とか、小柄な中西さんとか」
「モモヨくん、すっかりおぼえちゃったね」
ナニしたいランキングの上位にいる中西さんがはたらいているセブンでもローソンでもファミマでもない謎の変なコンビニは、パックの寿司関係が充実している。モモヨくんは中西さんにおすすめされたハマグリの握り寿司を、
「うん、おいしい」
と米焼酎のお湯割りをグイグイやりつつかわいく食べていた。
「チーフも食べてみて」
「うん」
「どう?」
「うん! うまいね」
「よかった」
「おれ、ハマグリ大好きなんだよ」
米焼酎をぼくより早いペースで飲んでいたモモヨくんはいつごろからか、いまどきわれわれでもまずもちいない、いわゆる寿司隠語を、
「やいチーフ! さっきからその写真ばかり見てるけど、わたしのハマグリのほうが愛ちゃんのハマグリより、もっとかわいいぞ」
という趣でつかっていた。小津安二郎監督も真っ青である。ハマグリはムシのドク、チューチュータコかいな、である。
とはいえモモヨくんは、ハマグリ等のあっち関連の隠語をまえから知っていたわけではない。今朝方鑑賞していた例の大人の動画より学んだらしいのだ。
その証拠に、
「あっ、マフィンもハマグリとおなじような意味でつかっていいんですか」
とチーフに質問もしていたのである。真面目である。勤勉である。
米焼酎をさんざん飲んだあとに日本酒も冷やでやっていたモモヨくんは、
「わたしのハマグリ食べたいか! マフィン食べたいか!」
とわたくしチーフにさらにかわいくからんでいた。




