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      その八


 翌朝いつもの時間に起床すると、ぼくは朝食を取るまえにまずキャプチャするVHSを作業場にもっていった。


「おや」


 すると複数あるパソコンは、すでにキャプチャの作業を黙々とすすめていた。


「おはようございます、チーフ」


 ありがたいことに、モモヨくんがもう最初のキャプチャをはじめてくれていたのだ。


 モモヨくんはいったん片耳だけ外したイヤホンをはめ直すと、動画の視聴にまたぞろもどっていた。しかしピンク色のノートパソコンに繋げられていたのはキャプチャするためのビデオデッキではなく、ぼくの外付けのSSDであった。かわいい妹弟子は、


「やっぱり小柄系が多いな。小柄熟女がいちばん好きなのかな」


 などとひとり言をいいながら真剣にいわゆる大人の動画を鑑賞していたのである。早朝からである。小さなお手手をグーにしながらである。


 きょうはお昼まえに同士の山城さんと図書館で落ち合うことになっている。だから、


「昼飯は外で食べます」


 と朝食の席でモモヨくんに断っておく。だがしかし昼まえに図書館にあらわれた山城さんは、


「はい、これ」


 と例の生写真が入ったレジ袋をぼくに差し出すと、撮影会の場所を手短に説明したのちに、


「袋のなかに書いておいたのもありますから」


 とすぐ帰ってしまった。なんでも山城さんは正午過ぎに歯医者の予約が入っているのをいまのいままで、すっかりわすれていたらしいのだ。


 ぼくは山城さんと料理屋〈むら野〉で昼飯を食べようと思っていたので、予定が狂ってしまった。ちなみに〈むら野〉は「図書館紀」以前からのいわゆる〝いきつけ〟なのである。


 狂ってしまったといえば、図書館での読書もそうである。ぼくは開館時間の九時ちょうどに図書館にロックアップして、しっかり本を読もうとかんがえていた。しかしそれが、まったく読書に身が入らないほど気持ちがざわざわしてしまったのだ。


 それは公園でたまにみかける例のエロエロレギンスの子がやはりレギンス姿で図書館にいたからである。


 館内をうろうろしてひたすら本を探していたエロエロレギンスさんとおなじようになんとなくうろうろしていたぼくは、声をかけてみようか、おもいきってお茶に誘ってみるか、などと妄想ばかりしていて、けっきょく本はいっさい読まずにいたのである。


 エロエロレギンスさんはランニングのときとおなじようにサングラスと黒いひらひらのマスクをつけていたので、これから走るのかもしれなかったが、ぼくはベージュのセットアップという身なりだったので、さすがにランニングするわけにもいかない。


 それに撮影会をやっているところは温泉旅館だった、という事情により実家へおもむく必要も生じていた。


 そんなわけでこのたびのわたくし環三千世は、公園にも料理屋にも行かずに、まっすぐ実家へ向かうことにしたのである。


 恩師はかなり気前が良く、たいていの経費は認めてくれるのだが、今回はただ個人的に天堂愛ちゃんの撮影会に参加したいだけなので、自腹を切ることにする。


 とはいえ、長年のらくらしているぼくには持ち合わせというものは基本ない。つまり自腹を切るというのは、実家から金を借りるということなのである。


 実家は商売をやっているのだが、きょうの現場は遠いようで、義姉は置き場ではなく、母屋にいた。お袋は畑に行っているのかもしれない。


「つぐみさん、こんにちは」


「あら、めずらしい人が来た」


「義姉さん、ちょっと痩せたんじゃない」


「お世辞はいいから、ちょっとすわりなさい」


 つぐみさんは義弟にお昼のことをきいてきた。だからぼくは、


「まだ食べてないんですよ」


 とこたえたのちに「つぐみチャーハン」をリクエストする。義姉の得意料理である。


「うん、うまい! あいかわらずおいしいなぁ。最高だなぁ」


 などと定石を踏みながら先の用を頼むタイミングを計る。案の定義姉はそれをすでに察していて、こちらが話しだすよりも先に、


「三千世くん、お金でしょ」


 と不意をつく感じでいってきた。ぼくはお茶をこぼす。わざとである。キッチンペーパーでテーブルを拭きながら間を取る。


「義姉さん、じつはそうなんです」


 お金を借りる理由は、こちらまで来るあいだに自転車に乗りながらかんがえている。義姉はそれを、そっぽを向いて聞いていた。さすがにあせったわたくし義弟はゼスチャーも交えて切々と訴える。


「さすがに無理かな……」


 ぼくはこうも思ったが、畳におでこを擦り付ける得意の土下座を決めていると、やがて義姉は頼んだ額のお金を封筒に入れて、


「はい」


 とぼくの後頭部あたりに置いてくれた。


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