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その八十四
局のまえで座り込みなどの抗議活動を連日おこなっているのは「美意党」という団体である。
こちらの団体は、おもにアカ隠ジャーの女好きにたいして憤慨しているのである。アカ隠ジャーはシーズン2になると、身を固めている。既婚者なのである。
しかし、にもかかわらず、アカ隠ジャーには四人だか五人だか親しい異性の友だちがいるのだ。
「知らなかったなぁ――こっちではまだシーズン2は視聴できないんですよ」
「そうでしたか」
「アカ隠ジャーは誰と結婚したんですか?」
「パン屋の子知ってますか?」
「ええ。シーズン1でよくアカ隠ジャーがその子目当てにパン買いに行ってますよね」
「あの小柄な子と結婚したんです」
「ああ、そうだったんですか」
「だけど、モモ隠ジャーは実質内縁の妻みたいになってるし、ときどき五十過ぎの後家さんのところにもお忍びで泊まったりしてるんです」
「正義のヒーローなのに?」
「そういうところが、一部には熱狂的に支持されてるんですけどね」
ほかにも正義のヒーローらしからぬ要素はある。その一つは愛読書である。アカ隠ジャーは「お○ン子大百科」なる書籍をつねに熟読しているのだ。
「ななな、なんでまた?」
「そこから、敵をやっつけるためのヒントを得たりしてるんです」
ちなみにこの設定の発案者は、モモ隠ジャー役の天堂愛ちゃんである。
「天堂さんは、シーズン2から積極的に原案を提出してくれてるんです」
「ぼく、そんな『お○ン子大百科』なんて、アイデア出してないですもんね」
美意党はこの「お○ン子大百科」にたいしてもとうぜん激昂している。だからそんな不謹慎な本を愛読しているアカ隠ジャーに厳罰をあたえるよう、要請してきているのだ。
美意党が要請する厳罰は当初死刑であった。しかしそれだと戦隊ヒーローとしての体裁が保てない。だから三原監督は殉教という線で折り合いをつけようとしている。
とはいえ、アカ隠ジャーが殉教してしまうと、シーズン3は事実上不可能になる。
三原監督は、もしそうなったら、隠者キャプチャーとはまたべつのヒーローをかんがえてください、と隠者キャプチャーの生みの親のぼくにお願いしてきた。
「アカ隠ジャーって、ハルキムラカミやカフカ作品の主人公よりもさらに超モテモテでしょ。それが美意党の逆鱗に触れちゃったんですね。だからまあ、鞍替えして、今度はあそこまでモテモテではないニューヒーローで――」
「いやいやいやいや、ででで、でもでも、ややや、やっぱり、シシシ、シーズンシーズン3のほうがいいですよ。だから、アカ隠ジャーがししし死ぬのは、なんとしても回避しましょうよ」
「でも、美意党の人たち、それで納得するかな……」
「死刑だろうと殉教だろうと、どっちにしてもだめですよ。ぼく、どうすればいいんですか」
「まあチーフさんは、原案者なんで、そこまで美意党にも抗議されないでしょう。監督のわたしが責任は取りますよ」
「でも、死んじゃったらおしまいですよ」
「美意党もさすがにわたしを殺すことまではしないでしょう。アカ隠ジャーだって、作品のなかで死ぬだけで、アカ役の俳優やスーツアクターの方がじっさいに死んじゃうわけではないですから」
作品内でアカ隠ジャーが殉教してしまったら、ダークエネルギーと磁場のバグのあれでフィクションが具現化して、わたくし環三千世は本当に死んでしまうかもしれない。
その可能性は大いにある。現に「お○ン子大百科」だって、思いがけないことから所有してしまったのだ。あれはあくまでも長寿座椅子のおまけなのである。不可抗力なのである。死刑なんて、あんまりである。殉教だってけっきょく死んでしまうのだから、やはりあんまりである。美意党という団体は、場合によっては一人の人間をここまで完全につぶしてしまうということを知るべきである。
「わたしもじつはシーズン3のほうが確実だと思ってるんです。『ワオキツネガラモン』のあと『ワオキツネピグモン』っていう映画撮ったんですけど、大コケしましたからね」
「でしょでしょ」
「チーフさんがそこまでシーズン3を熱望しているなら、わたしも、もうちょっとがんばってみますよ」
「六ヶ月くらいの禁酒とかで、美意党の人たちと折り合いつけてくださいよ。あといろいろお菓子とかも送って。ちょっといいお菓子。アルフォートとか。ね?」
「そうですね――なにかそういう重めの罰みたいなもので、あちらサイドをどうにか納得させますよ。なかなかむずかしいでしょうけど」
フィクションがなにかのあれで具現化するのは、かならずしもすべてその通りというわけではない。まちまちである。
たとえばシーズン2でアカ隠ジャーはモモ隠ジャーとナニしまくっているらしいが、わたくし環三千世は天堂愛ちゃんとはなにもない。できることならナニをナニしたいが、じっさいはなにもないのである。
だから作品内でアカ隠ジャーが殉教したとしても絶対にこちらも死んでしまうわけではないだろう。しかしそれでも、うっちゃっておける事柄ではない。
「ちょっと失礼」
と断ったのちに三原監督はケータイを操作していた。そしてしばらくすると、またケータイを確認し、ぼくにこういった。
「明朝、美意党の代表と詰めた協議をすることになりました。テレビ局のお偉いさんも同席します」




