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その八十三
榊原るみ似の子がおまけで付けてくれた、おニャン子のいわゆる裏本は、よく見ると小さい〝ャ〟が抜けていて、かつ〝ニ〟の文字が伏せ字に――つまり「お○ン子大百科」という、とてつもない題になっていた。
「これ、配送のとき、表紙見えないようにしておいてね」
「大丈夫。パッと見は広辞苑みたいだから」
しばらくぶりに三原監督からメールが届く。今夜、一杯やりながら話がしたいとのことであった。午後七時に料理屋〈むら野〉で落ち合うことにする。
屋敷までランニングでもどり、すぐ入浴する。そしてモモヨくんに先のことを伝える。
「三原さん、元気なの?」
「うん、きっと元気だよ」
「またコスプレバーに行くのかな」
「今回はちがうと思うよ」
自室で動画を観ていると、チャイムが鳴った。配送業者さんだった。長寿座椅子といっても見た目は平凡なので、とりあえず客間に置いておく。小型マッサージ器二つと例の裏本はかさばらないので、自室にもっていく。
新妻とはこれまで通り寝室を別にするということで話はついている。モモヨくんは、ぼくがあっち関連のコンテンツを鑑賞するために寝る部屋を別にしたがっているとかんがえているようだった。
しかし、じっさいはちがうのである。わたくしチーフは側室のエロエロレギンスさんを考慮して、先手を打ってこう取り決めたのである。そのエロエロレギンスさんがまたぞろ押入れから顔を出してきた。
「さっき、黒十字忍団だかカットマンだかが、屋敷のまわりをうろついてました」
「それで、どうした?」
「線香花火で威嚇したら、逃げていっちゃった」
「そうですか。ありがとう」
「ファミコン、やっていいでしょ」
「いいよ。あっ、おれ、今晩出かけるからね」
「わかりました」
モモヨくんはキャプチャ室で何かの番組をお手手をグーにして観ていたので、ぼくはエロエロレギンスさんがファミコンをやっているのをぼんやり見たり、文庫を読んだりしていた。
「よし、そろそろコミュニティーバスが巡ってくるな。行ってくるね」
「いってらっしゃい」
料理屋にあがると、もう三原監督は一杯やっていた。
「すいません、お待たせしちゃって」
「いえいえ、わたしのほうが早く来すぎたんですよ」
監督の瓶ビールが残っていたので、とりあえずそれを、
「これ、もらうよ」
とグビリと飲む。小津安二郎監督の作品にこういうシーンがあるので、なんとなくやってみたのである。
「もっとビール頼みますか?」
「酒にします。燗で」
「じゃあ、わたしも酒にしようかな」
「肴はどうします?」
「女将さんがハマグリのいいのが入ってるって、さっきいってましたよ」
「ハマグリ! じゃあ、それ頼みましょう」
バニラシェイク共和国サイドにワオキツネガラモンがらみの苦情は、いまだいっさい来ていない。だから三原監督も「隠者キャプチャー」はそもそもはワオキツネガラモンを退治するために撮った、ということすらも、すっかりわすれているのだった。
逆にいえば「隠者キャプチャー」は、それくらい好調なのである。現在はシーズン2を放送しているが、シーズン3の話が早くも出ているほどなのである。スポンサーサイドはさらにお色気方面を強化してくれとまでいってきているのである。シーズン3はだからさらにさらに予算をたくさん用意してもらえそうなのである。しかし、
「局のまえで、座り込みですか……キツいですね」
「そうなんですよ……」
そのシーズン3がもしかしたら不可能になってしまうかもしれない騒動が、現在バニラシェイク共和国で起きているという。




