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その八十二
伊藤整の「氾濫」も読み終えたので、午後は古書店を巡ることにする。
モモヨくんにそれを伝えようとすると、外部ストレージの補充をもとめてきた。そんなわけで古書店巡りはあとにして、とりあえず〈雷丸電気〉へ買い出しに行く。
「ネットのほうがたしょう安いけれど、あの〈雷丸電気〉は、大写毛様からもらったテレホンカードが使えるからな」
きのうネットで購入したランニングシューズが届く。足に慣らすためにこれをはいて徒歩で〈雷丸電気〉に向かう。
屋敷から〈雷丸電気〉までは歩きで一時間ほどであった。シューズはすっかり足に馴染んだ。きょうからこれで走れそうである。
店に着くなり狙っていた外付けSSDをまず買ってしまう。以前ここでグズグズしていたら、誰かに爆買いされてしまったことがあったのだ。
SSDを確保したのちに店内をぶらつく。この店は大手量販店にはない珍しいものがけっこう置いてある。だれかがマッサージチェアーを唸りつつ試していた。長寿座椅子とかいうものも置いてあった。新入荷とのことである。
「おお、ジャパン氏じゃん」
マッサージチェアーをここぞとばかりに堪能していたのは、年配の旦那だった。ぼくはとなりの長寿座椅子にすわる。
「なにやってるんですか?」
「ちょっとさ、いいムードになるような感じのランタンみたいなの探しにきたんだよ、LEDのやつ」
「何に使うんですか?」
「いや、女子とキャンプとかやんじゃん、それで軽く添い寝とかすんじゃん、そんときさ、いい雰囲気に持っていきたいじゃん」
「なるほどね。あのときの女の人と、まだ交流あるんですか?」
「あるよ。スゲーだろ」
「うん――まあ、なかなかがんばってるなって感じですかね。今後とも精進してくれたまえって感じですかね」
「おっ、ずいぶん強気になってんじゃん。いい子めっけたのか?」
「ええ、まあ」
「いえよ。おしえろよ」
「まず結婚するんですけどね、この子はなにげに歳はいってるんですけど、身長一四五センチでかわいいんですよ」
「おまえ、ちっちゃいの好きだからな」
「その子が正室なんです。で、側室がとりあえず、いまのところ二人かな――一人は旦那さんとおなじくらい走れる子で、正室よりは十センチくらい大きいんですけど、まあそれでもぼちぼち小柄でしょ。で、正室よりぜんぜん若いです。それからもう一人の側室は五十を過ぎてまして、成人している子どもも二人いるんですが、それでも若作りしてて、しかもそもそも童顔だから、そこが変にエロくてですね、じっさいエロい感はすごいんです。ややぽちゃです。裸にエプロンです。とうぜん小柄です」
「なんだ、そりゃあ――いってることが、めちゃくちゃだぞ」
「めちゃくちゃじゃないですよ、ぜんぶ本当なんですよ。あっ、ホームセンターで青汁売ってた娘、おぼえてますか?」
「宮野涼子に似てる子か?」
「そうそう、あの子とも電話番号交換してますよ」
「いつだよ」
「このあいだ。あと、まえから好きだった出前の子とも交換してます。それから特撮のヒロインやってる女優もウチにまた居候することになったんですよ。この子もけっこう、いろんなポーズ取ってくれるんです、四つん這いとか。だからまあ、側室とまではいかないかもしれませんけど、けっこういい感じにはなれると思います」
「あはははは、ジャパン氏はおもしれぇな。やっぱりそれくらい、希望を持って生きないとな、おれたちおじさん族は」
われわれが長居しているこのコーナーに店の若い子が近づいてきた。この若い子は「気になる嫁さん」のころの榊原るみに似ているといえば似ていた。
るみ似の子は新入荷の長寿座椅子をぼくに薦めてきた。すわっていたからだろう。
「値引きしてくれるんですか?」
「させていただきます」
「でもきょう、クルマじゃなかったんだ。持ってけないな……」
「ご自宅まで配送いたしますよ」
長寿座椅子は当日配送、送料無料、十年保証、そしていまなら最新小型マッサージ器もおまけで二つ付くとのことだった。
「うーん、おまけがべつにもう一種類あったら、買っちゃうんだけどなぁ」
「裏本も付けましょうか?」
「むかしのおもちゃ屋なんかひどくてさぁ、ファミコン本体買うのに、ピンボールとか人気のないカセット抱き合わせでおっつけてきたりさぁ、ん? 裏!」
「そう。おニャン子のやつ」
ぼくはテレホンカードを取り出した。




