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その八十
午後の三時ごろ、ネットでランニングシューズを検討していると、
「ただいまぁ」
とモモヨくんが帰ってくる。エロエロレギンスさんは、マグカップを持ちながらどこかへさがっていった。
モモヨくんは式や披露宴の日取りを双方の実家と相談しつつすでに決めていた。ちなみに〝初夜〟のほうは、晩飯まえにおこなう予定になっているという。
「そうですか――わかりました」
とりあえず風呂に入ったりなどいろいろ準備し、モモヨくんの部屋でドキドキしつつ待つ。やがて用意の整ったモモヨくんがいよいよ部屋に入ってきた。しかし、
「パンティーって、この時点で脱いじゃうんですか?」
「ん?」
なんでもモモヨくんは――じつはぼくとそれほど年齢も違わないのだけれど――いまだにいわゆるあっちのほうの経験はないとのことだった。
「ぜんぜん? いままで?」
「はい。わたし、男、まったく知らないんです」
「そうなんだね――うん、あいわかった」
ぼくはこのあと一通りやさしく指導し、そのあともう一回おさらいをした。おさらいを終えたぼくは、つぎの講義を翌朝と決めたのちに晩飯の用意をする。
ぼくのあとに入浴していたモモヨくんは、
「わたし、やりますよ」
とあわてて台所に来た。ぼくは、
「休んでていいよ、モモヨくん」
といってあげた。講義中とおなじくモモヨくんはそれに素直に応じる。
余り物でいい感じのつまみが何種類かできた。晩酌をはじめる。禁酒生活の再開は、しばらく延期である。米焼酎を一杯飲み終えたモモヨくんは、
「あっ、そうだ」
とリュックからノートパソコンを取り出した。〈国境なき無師団〉の事務方の代役として他国に出向していたモモヨくんは、その国で「沼口探検隊がゆく」の再放送を録画したみたいであった。その放送回をお湯割りを飲みながら観る。
この放送回での探検隊一行は野良猫島の廃墟と化した旅館に突入しようとしていた。隊員たちは、おのおの歯を食いしばって旅館をガン見している。
大げさなナレーションののち、隊員の一人が先鋒を志願する。沼口隊長はどう判断すべきか考え込んでいた。
CM後、沼口隊長は先鋒を志願するその若手隊員と無言で二分ほど睨み合う。双方凄まじい眼力である。やがて隊長は若い隊員に百均で売っているような半透明のシュシュッとやる手動式スプレーでなにか特殊な液体をかけてあげる。先鋒を任せるということだろう。
「もう一回ね。ちょっと戻すよ」
「うん」
「ほらね! ちゃんと〝猫よけ〟って、いってるでしょ」
隊長と固い握手をしたのちに若い隊員は旅館に突入する。しかし館内に潜伏している大猫の攻撃を受けたのか、隊員はボロボロの身なりでもどってきた。




