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その七十六
うしろに自転車を積んだのちにバリタンクで屋敷にもどる。エロエロレギンスさんはキャプチャ室ですべてのパソコンを稼働させつつ本を読んでいた。
「お嬢さん、お疲れでしょう。マッサージしますよ」
「いまはやだ。あとでやってください」
「じつはね、正室をもらうことになったんだ」
「知ってます。モモヨさんでしょ」
「よく知ってるね」
「さっき、モモヨさん帰ってきたんです」
「え!」
「そのときに、ききました」
「モモヨくん、部屋にいるのかな?」
「三千世様の実家と自分の実家に行くって、いってました。今晩は実家に泊まって、あしたからまたこちらで生活するそうです」
「行き違いだったか……」
「側室のことは黙ってましたよ」
「ん?」
「わたしが側室だってこと――そうでしょ?」
「ん? う、うんうん、まぁね」
真面目にかんがえると恐ろしくなってくるので、とりあえず手書き原稿をテキストエディタで電子化する。案の定、作業はまったくはかどらなかった。先ほど義姉よりきいた山崎知子さんのことで、あれこれ妄想してしまっていたからである。
つぐみさん情報によると、知子さんはいま〈スミロドーン〉というクリーニング店でパートをしているとのことだった。二年ほどまえに着た喪服がそのままタンスに入っている。それを出しに行こうかともちょっと思った。しかし、
「そういえばおれ、妻をこれから娶るんだっけ」
と考え直して会いに行くのは、やめにした。いまはマンモスジェントルマン然としているほうが安全だろう。
ノートパソコンを閉じて、バリタンクの説明書を読む。やがて午後三時をすぎたので、公園へ走りに行くことにする。
「なんか飲んでから出るか」
キャプチャ室を覗くとエロエロレギンスさんは猫のように丸くなって寝ていた。わるいので声はかけずに一人で十兵衛さんたちに先日いただいた青汁をホットで飲む。青汁のメーカーをスマホで調べていると、そのスマホが振動した。妹の京子からであった。
「もしもし」
「もしもし。あっ、お兄ちゃん、いま電話だいじょうぶ?」
「大丈夫だよ」
「あのね、おとうさんがね、お兄ちゃんに頼みがあるらしいの」
「おとうさんって、誰だよ」
「こっちのおとうさん。三河のお義父さん」
「え! 三河様がおれに」
「うん。今度国替えされちゃうのよ、三河家」
「そうなんだ――たいへんだなぁ」
「それでお願いがあるみたいなの。悪いけど、こっち来てくれる?」
「急ぎか?」
「うん。ホントはそっちに行けばいいんだけど、皇帝様から無許可で国外に出るのは禁止されてるのよ」
「だったら、こっち来るのはやめておいたほうがいいよ。おれ、これから行くよ」
「お願いね」
藤吉郎皇帝は竹膳家に次ぐ石高の三河家もとうぜん警戒している。だからきっと国替えなどをして徐々に三河家の力を弱めようとしているのだろう。京子も面倒なところに嫁いだものだ……。




