75
その七十五
もどってきた自転車で帰ろうとすると、
「お昼は?」
と義姉に呼び止められてしまった。
「まだですけど」
「じゃあ、つぐみチャーハン食べなさい」
「はい」
つぐみさんは義弟になにか話があるようだ。ちなみに昨年お借りしたお金はまだ一銭も返していない。だからそろそろ、そのことで小言をいわれると思われる。
こんなときはひたすら辛抱するしかない。逆らったりふざけたりごまかしたりすっとぼけたりしてはならない。マンモスもキャオもしめしめも禁句である。
「はい、どうぞ」
義姉はチャーハンと冷奴と味噌汁を出してくれた。そしてお金のことではなく、中西さんとの結婚話の後日談にかんして詰問してくる。
「三千世くん、威勢のいいこといってたくせに、けっきょく向こうの家にも行かなかったでしょ」
「ん? 行くことは行きましたよ。途中、暗闇大臣とかにけっこう邪魔されましたけど」
「また、ふざけて。わたし、わかってるんだから」
つぐみさんは、ぼくのこの行動をある程度予想していた。だから気を利かせて義弟のために先方に縁談をもちかけてみたようだ。すると相手方もこの話にたいへん乗り気になってくれたという。
「御老師様って、三千世くんも知ってるんでしょ?」
「ええ、まあ」
「その方にお仲人さん、お願いするらしいの。高桐先生のお師匠さんなんですって。だったらいいよね」
「ん?」
「お正月のときモモヨちゃん見て、なんかピンと来たのよ。この子が三千世くんのお嫁さんになるんじゃないかって――やっぱりわたしの勘、当たってたのね」
「モモヨくんに結婚の話をしたんですか?」
「そうよ」
「それでモモヨくんも、ぼくと結婚するっていうんですか?」
「ええ。今夜こっちにあいさつに来るみたいよ」
「中西さんじゃなくて?」
「あの子の名字は〝三永〟さんでしょ。三永家のご両親はもうゆうべ、ごあいさつに来てくださったのよ」
「えええええええええええええええええええええ!」
「モモヨちゃん、いま海外に出張してるんだってね」
「海外っていうか他時空っていうか……あっ、そういえば、御老師も仲人がどうのこうのって、いってたな……」
住むところも、いまの屋敷ということで相手方も納得している。だから環家は、とりあえず百万程度の結納金を用意すればいいみたいだ。
「あっ、そうだ。お義母さんね、バリタンク、お祝いに三千世くんにあげるって、いってたわよ」




