73
その七十三
料理屋〈むら野〉で一晩過ごしたのちにいったん屋敷にもどる。
「じゃあ、お昼まえに、また来ますね」
「はい。荷造りして待ってます」
天堂愛ちゃんは当初、レンタカーで自分の衣類を屋敷に移すといっていた。しかし読んでくださっている方もご存知のように現在ぼくはバリタンクを実母より借りている。だから、
「おれがクルマで運んであげようか」
と愛さんに提案したのである。大旦那である。総責任者である。
屋敷に帰ると、
「おかえりなさい」
エロエロレギンスさんが玄関口に出てきてくれた。お国での用事はもう済んだとのことであった。
「遅かったね」
「うん――ちょっといろいろ用事が重なっちゃってね」
「四つん這いとかね」
「ん?」
「朝食どうします?」
「食べようかな」
「今朝、鮭焼いたんだけど」
「うん、それでいいです」
エロエロレギンスさんといっしょに朝飯を食べながら天堂愛ちゃんのことを話す。愛さんとくノ一のお嬢さんとは知り合いである。大写毛様が皇帝だったころは、三日三晩おこなわれるスリラーダンスの発作(?)の世話係もいっしょにやっていたそうだ。
朝食後は例の手書き原稿をいちおう手に取ったのだが、のっけから判読困難の部分がまたぞろ出てきたので、ぼくは作業を早々に放り出した。不真面目なのである。のらくらなのである。
十時のお茶のあと、天堂愛ちゃんにメールで問い合わせてみる。愛さんは、
「もう荷造りは終わってます」
と返信してきた。
そんなわけでぼくは、バリタンクで料理屋〈むら野〉に向かった。




