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その七十二
天堂愛ちゃんが間借りしている部屋は六畳一間だった。部屋には衣装がたくさん吊るされてある。
原案も積極的に書いている愛さんは、それらの衣装をお色気方面を研究するために、おこづかいで購入しているという。
「ホントは衣装部屋も欲しいのよ」
これはまえにも記しているけれど、去年の春先まで唐辛子帝国の城で使用人をやっていた愛さんは、現在のようにバニラシェイク共和国で女優をするまえに繋ぎみたいな感じで数ヶ月ほど隠者屋敷で暮らしていた。
ぼくもモモヨくんも一部屋あればじゅうぶんというタイプなので、当時の愛ちゃんルームは、ほぼそのままになっている。だからぼくは、
「あの部屋、空いてるよ」
といちおういってみた。すると愛さんは、
「えっ、ホント! もうとっくに誰か使ってると思ってたの」
と思いのほか関心を示してくる。
「コミュニティーバスで十分くらいじゃ近いもんね」
「じゅうぶん通えるよ」
このように愛さんはかつての自室に関心を示してきたわけだが、ぼくのほうは畳まれてあった体操着に必要以上に関心を示していた。おしぼりを激しく噛み噛みしちゃうくらい関心を示していたのである。
天堂愛ちゃんはそんなぼくを見て不憫に思ったのだろう、
「着てあげましょうか?」
とおっしゃってくれた。ぼくはもちろん、
「あの、うしろ向いて、目もつぶってますから」
とお願いする。
「とかいって、見ちゃだめですよ」
「そそそ、そんなこと、ぜったいやりませんよ」
やがて天堂愛ちゃんが着ているものを一枚一枚お脱ぎになっていくかすかな音がきこえてきた。ぼくはもっていたおしぼりを強く握りしめる。
「三千世さん、目開けてもいいですよ」
着替え終えた天堂愛ちゃんがこういってくれたので、ぼくは振り向いたのちにお目目をカッと見開いて凄まじいほどの集中力で愛さんを凝視する。
「どうですか?」
「うん」
「お色気方面への効果はあります?」
「あります。ですが、ポーズの取り方によっては、さらに効果があると思われます」
「どんなポーズ? わたし、やりますよ」
「でも、それはさすがに悪いですよ」
「ぜんぜん悪くないですよ。作品のためですもの」
「そうですか――ではまず、ええ、四つん這いのほうをお願いいたします」
「四つん這いですね。わかりました」
天堂愛ちゃんは、はいていたブルマを後ろ手で引っ張って調整すると、何の躊躇もなく四つん這いの体勢になってくれた。ぼくが〝あっち向き〟での四つん這いもお願いすると、それも、
「こうですか?」
と四つん這いのまま向きを変えてくれた。




