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その六十六
中西さんを娶ることができなかったので、しばらくは元気が出ないだろうと予想していたのだが、翌朝はあんがい爽やかな起床であった。きっと肩の荷が下りたのだろう。
最近、新皇帝などに警戒とかされちゃって、
「天下取りか……どうしよっかなー。動いちゃおっかなー」
などとちょっといい気になってもいたけれど、わたくし環三千世は所詮図書館と公園とを長年ホームグラウンドとしてきた冷飯なのである。隠者なのである。妻を娶るなんていうこととは、そもそも無縁だったのだ。
朝食を取ったのちに手書き原稿をテキストエディタで電子化する。作業はいつものようにはかどらなかった。一枚ほどやっつけたのちに延々休憩していると、ややぽちゃロリ熟女さんからメールが送られてくる。
メールには御老師がぼくを呼んでいると記されてあった。もしかしたらフィクションが具現化する例のバグのことで、なにか新しい発見があったのかもしれない。
フェイスメタン社から資金の提供を受けて夢のニート生活を継続されている御老師様は、今年のはじめより、先の具現化の研究もおこなっているのである。
「CEOのイロモン氏が具現化の噂を知って、興味もってるんだよ」
「イロモン氏はいまごろ知ったんですか――おれなんか体感してるくらいなのに」
ぼくはエロエロレギンスさんに、
「お昼は外で食べるよ」
と告げたのちに、さっそくややぽちゃロリ熟女さんのお宅へ徒歩で向かう。
ロリロリ邸のチャイムを押すと、
「はーい」
とややぽちゃロリ熟女さんはいつもの幼稚園の先生然としたエプロンをつけて、すぐ玄関を開けてくれた。
「お忙しいところ、すみません」
「いやいや、ぜんぜん忙しくないですよ。なにしろ隠者だからね。あはははは」
「でもきのうは公園に来なかったじゃない」
ややぽちゃロリ熟女さんは御老師から今度はロボットタヌキの散歩を頼まれている。
きのうは散歩がてらぼくと話をしようと思って午前中に公園へおもむいた。しかし読んでくださっている方もご存知のように、わたくし環三千世は結婚の許可を得るために名付け親さんのところにきのうは行っていたのだ。
そんなわけで、ぼくはランニングを休んだ理由を話す。
「結婚って、ということは正室? 正室を取ろうとしたの?」
「正室……正室、うん、まあ、そうですよね、正室になりますよね」
「側室はどうするの?」
「側室? 側室もなにもないですけどね。正室もいないんだから」
「こないだ小蝶さん、おっしゃってたけど、三千世さんの妹さんがお嫁に行った家のお父さん」
「三河様のことかな?」
「そうそう三河様――そのおじいさんは正室がいなくて、側室が二十人くらいいるんですってね」
「なんかそうみたいですね。たしか昔、大写毛様に命じられて正室と離縁したのかな」
「じゃあ、それ以来、正室は取ってないのね」
「たぶん」
「三河家は、小蝶さんがいうには、いちばんまとまりがあって、うまく機能しているらしいの」
「妹の旦那は側室取ってないですけどね」
「三河様みたいに三千世さんも側室取りなさいよ」
「あはははは。いきなり側室ですか。ぼくもずいぶん大物扱いされるようになったもんだなぁ」
「三千世くんはホントに大物よ。じゃあわたし、とりあえず側室ね」
「はいはい……え」




