65
その六十五
午後七時すぎに名付け親さんの住まいにようやく到着する。名付け親さんは一人暮らしなので、道すがらにあった乾物屋でてきとうに食料を調達しておいた。これは中西さんの案である。
「おじさま、晩御飯は?」
「まだ食べてないよ」
「わたし、なにかつくりますね」
「そうかい――じゃあ頼もうかな」
ぼくは名付け親氏と居間で二人きりになった。なにげに緊張していたぼくは、中西さんが台所で料理をしている最中なのに結婚の許しを名付け親さんに懇願してしまった。あんがいせっかちなのである。
「うーむ……」
「お願いします」
「でもお宅さん、仕事は?」
「それが……」
ぼくは隠者という自分の立ち位置を名付け親さんにかなり盛って説明する。
「しかし、ニートの人に結婚を許可するわけにもいかないよ」
「はあ……」
「定職についてからですよ、この話は。わかるでしょ?」
「ごもっともです」
料理を運んできた中西さんも名付け親氏からの返事をきくと、
「わかりました」
と納得していた。そんなわけでぼくたちは、名付け親氏邸で晩飯を食べたのちにお暇することとなる。
中西さんは帰るときもバリタンクを運転してくれた。
「申し訳ない」
ぼくは謝った。
「こちらこそ、すみません」
中西さんは備え付けの無線機で「ヘリキャプター」という航空機を呼んで、
「オートコント、ローラー!」
バリタンクとドッキングさせていた。
「空中だと渋滞とかないから、はやいですね」
ということだったので、あっという間にK市にもどる。別れ際に、
「名付け親さん、顔色わるかったね」
とたしょう気にかかっていたことを振ってみると、中西さんも、
「髪の毛も青だったし、全身も青だったし、おからだの調子がよくなかったのかもしれませんね――眼帯していたのも、その影響なのかしら……」
という感想を述べていた。
「さっき会った名付け親さんは、やっぱり暗闇大臣だったのかな……」
屋敷の浴槽にてきょう一日を振り返っていると、いよいよそんな感じもしてきたが、もうあとの祭りであった。
あまりにも長湯をしていたからだろう、
「だいじょうぶ?」
とエロエロレギンスさんが浴室に入ってきた。
「湯当たりとかしてないよね?」
「うん。ちょっと考え事しててさ」
「結婚の件、どうだったの?」
「だめだった」
「そう……」
エロエロレギンスさんは湯船に浸かると、ぼくと向かい合うようにして、こちらの太もものうえにすわった。
「でも、よかったじゃない」
「よかったのかな……」
「うん。だって、ゆうべいってたでしょ」
「ん?」
「対処してる最中――わたしの耳もとで、わたしのほうがホントは好きだって」




