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その六十一
名付け親氏が暮らす山間部までのアクセスはかなりわるいので、ぼくはクルマを用意する。最初はレンタカーを借りるつもりでいた。しかしお袋にきいてみると、
「しばらく乗らないから貸してあげるよ」
とのことだった。
「じゃあ悪いけど、貸してもらおうかな」
予定変更である。しめしめである。
「実家に行ってクルマ借りてくるね」
「遅くなるの」
「晩飯までには帰ってくるよ」
ちなみにお袋は、最近新車を購入しているのである。ぼくはクルマにくわしくないのできちんとおぼえてはいないが、たしかジムニーとかそういう四輪駆動のやつである。お袋は畑仕事をやっているので、いつもクルマは4WDなのだ。
「山間部っていうんだから、四駆のほうが心強いよな。幸先いいぞ」
実家に自転車で行くと、お袋は道具小屋のとなりにある休憩所で職人たちとお茶を飲んでいた。
「いつも、すいません」
「おお、大統領!」
子どものころから知っている川口さんという職人がこう冷やかしてきた。ぼくはてきとうにニヤニヤ笑って、あまり込み入った話にならないうちにその場をすみやかにはなれる。
「カギはどこにあるんですかね?」
「もってるよ。はい」
ぼくはお袋からクルマのキーを受け取る。母屋をのぞくと義姉がいたので、いちおうあいさつする。借りたお金はまだ返していない。しかしここまで出向いておいて、まさか声もかけないわけにはいかないだろう。
「つぐみさん、しばらくです」
「クルマ借りにきたの」
「うん」
「どこか行くの?」
「ええ」
「遊び?」
「いえ、名付け親さんのところに、結婚の許しをもらいに行くんです」
「なにそれ」
「相手の家は、名付け親さんの許可がないと重大なことは決められないんです」
「また、ふざけてる」
「今回のは本当なんですよ」
ぼくは事の詳細を義姉に伝えたのだが、つぐみさんはまだ交際はしていない、というところで吹き出した以外は、ほとんどきいてもいないようだった。
「お正月のとき、ちょっとしゃべったんだけど、あの子、来てくれるんじゃない」
「ん?」
「あの小柄な子。たぶんお嫁さんに来てくれるわよ」
「モモヨくんじゃないですよ」
「また、ふざけて。同居してるあの子のほかに、いったい誰がいるのよ」
「あはははは。いっぱいいるんですよ。じゃあ、そろそろ帰りますね」
「漬物もってく?」
「うん」
ぼくはつぐみさんが漬物の用意をしているあいだに新車を見に行く。
「頑丈そうなクルマでしょ」
タッパーをもったつぐみさんがうしろからこう声をかけてきた。
「なんていうクルマなんですか?」
「なんだったかな……」
クルマの横腹には「VARITANK」と記されてあった。太いタイヤがなにげに六つもついている。
「戦車みたいだな」
ぼくは義姉から漬物のタッパーを受け取ると、その「VARITANK」に乗り込んで、隠者屋敷にもどった。




