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その六
屋敷にもどるとまず風呂に入り、それから晩酌の用意をする。晩酌は毎晩やっているのである。酒は米焼酎のお湯割りである。暑くても寒くても一年中お湯割りを飲んでいるのである。
鶏大根などをつくってくれていたモモヨくんにその米焼酎を勧めてみる。モモヨくんはイケる口なのか、
「いただきます」
とすぐお湯割りをマグカップにつくっていた。あっという間に飲み干す。そして、
「あっ、そうだ、ねえチーフ」
と先ほどネットで調べたという猫対策の最強の作戦なるものをざっと説明してくる。
「ふむふむ、なるほど。まあペットボトルは効果がないっていうのは定説だからね」
なんでも最新の研究(?)では、むかし米屋で売っていたプラッシーのビンに、どくだみを煎じたやつを入れて周りに配置しておけば猫はちかづいてこない――ということになっているみたいなのだ。
しかしプラッシーのビンは昭和五十九年以前に製造され、かつ未開封のものでなければならない。さらにどくだみのほうも「樹樹どくだみ」などという、たぶん変な地帯にしか生えていないやつでなければならないとのことである。つまり用意するのは事実上不可能なのであった。
それでもモモヨくんは、隠者道場で知り合った年下の女の子に頼んで、いまプラッシー関連を調べてもらっているらしい。真面目である。勤勉である。
「チーフ、ビーフシチューのほうは食べないんですか?」
「あっ、いまから食べるね」
「どう?」
「うん。うまい! ビーフシチューおいしいよ、モモヨくん。鶏大根もうまい」
「お酒のつまみには合わないかな?」
「いやおれ、酒のつまみはなんでも大丈夫なんだよ。サンドイッチとかでもいいよ」
「でもわたし、パン類とは決別してるから……」
「あっ、そうだったそうだった。うーんとね、ふつうのご飯のおかずみたいなやつでいいよ」
「わかりました」
つぐみさんは義弟のニート指数に危機感をいだいて隠者道場にぼくを入れたわけだが、そもそもモモヨくんやモモヨくんのその後輩の子などは、どういう経緯で道場に通うようになったのだろうか。
モモヨくんはとくにのらくらしている感じはない。むしろ勤勉だ。米焼酎を飲みながら、そんなことをかんがえていると、
「ポイントを集めるためですよ。取っ掛かりはポイントがいっぱい貯まるんで、道場に通ったんです」
とモモヨくんはチーフの素朴な疑問にこたえてくれた。きっとぶつぶつひとり言をいっていたのだろう。わたくし環三千世はけっこうひとり言をつぶやく類の紳士なのである。
「チーフは恩師からのポイントは、どうされてるんですか?」
米焼酎を小休酒してしばしかんがえる。たしかに何度か恩師にポイ活うんぬんときかれたことがあったかもしれない。
おそらくそのときぼくは、ポイ活というのは「ポイ捨てしている人に警告をあたえる」とか「ポイ捨てしてある空き缶や吸い殻を拾う」ことなのでは、と早合点して強固に拒絶してしまったのだ。のらくらだからである。冷飯だからである。
「もったいないですね。恩師にメールで、きいてみたら?」
「あとからだと無理なんじゃないかな? おれ、そもそもポイント集めるカードみたいなものもつくってないし」
「ポイントは適当な用紙に、こんな感じのマークを貼っていくんですよ」
「ああ、ベルマークみたいにやるんだ」
「わたしあとで恩師に問い合わせてみますね、チーフのポイントのこと。たぶん失効はしてないはずだけどな」
モモヨくんは鶏大根をかわいく食べたのちに米焼酎をグビリとやった。




