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その五十七
マチコお姉さんから、
「なにしてらっしゃるの?」
というようなメールが送信されてきた。
「抹茶ミルクを飲んでます」
とだけぼくは正直に送る。モテモテ動画の投稿者にお叱りを受けるような返信である。しかしぼくが女性からのメールにこんなに平凡な返答をしてしまったのは、じつは理由があるのだ。
ひらたくいってしまうと、わたくしチーフは、こちらのマチコお姉さんなる方をたいへん警戒しているのである。
マチコお姉さんはセブンでもローソンでもファミマでもない謎の変なコンビニではたらいている中西さんのお茶の師匠である。
昨年の秋にぼくはスケベ根性に牽引されて中西さんが習っているその茶会にのこのこついて行った。そこでマチコお姉さんと面識をもったのである。
弟子たちに、マチコお姉さんマチコお姉さん、と呼ばれているこちらのお茶のお師匠さんは、お姉さんといってもたぶん年齢は五十七、八にはなっている。
だからどうも、お姉さん扱いしてもらっているお返しとして、お弟子さんたちの縁談をまとめているようなのだ。
「とてもお綺麗な方でしょ。三千世さんよりちょっと歳は上だけど」
「はあ」
「年上はお嫌い?」
「いえいえ、コンテンツ的には最大シェアを誇ってはいるんですけど……」
「だったら、いいじゃない」
ぼくはお茶を習っているわけではないけれど、先日こんなお話をいただいた。隠者のぼくに縁談をもちかけてくれるというのは、ふつうであれば、たいへんありがたいことである。
「ジャパン氏スゲーな。そんなのらくらしてるのに、よく縁談なんかきたな」
「ニートだとは思ってないみたいなんです。どっかのお偉いさんかなんかだと思ってるようなんですよ」
「そんなビートルズのティーシャツとか、着てるのにかよ」
「ええ。大名だか武将だかだと思ってるみたいですよ」
「あはははは。じゃあ、いい女なら、話、すすめちゃえばいいじゃん」
「うーん……でも、いろいろ問題があってね」
「問題なんか、ないだろ。行けよ。どんどん行けよ。得意の『しめしめ』決めろよ」
年配の旦那は信じなかったが、問題というものはじっさいある。かんたんにいうと、その縁談の相手というのが、中西さんのお母さまなのだ。
お母さま自体はとてもいい方である。ナニしたいランキングにもじつはたまに上位にランクインしてしまっているくらい魅力的な婦人である。
しかし娘の中西さんは昨年の初秋から娶りたいランキングの第一位をずっと死守している子なのだ。しかもアンリ・ベール氏をたずねようとかなんだとかいっていきなり旅行することまで妄想しちゃっているからナニのほうのランキングでも常に一位か二位になっているのである。
そんな娘さんの実のお母さまを――ナニしたいランキングの上位にたまにランクインしているとはいえ――さすがにもらうわけにはいかないだろう。人生うまくいかないものである。しめしめの逆なのである。
またぞろメールの着信音が鳴った。今度は天堂愛ちゃんからであった。隠者キャプチャーのお色気方面の原案は、催促してくる愛さんにまずは送ることになっている。しかし最近は愛さん自身もアイデアをちょくちょく出すようになっていて、シーズン2では、むしろ愛さんのほうが積極的に原案を書いているのだ。
天堂愛ちゃんは「電話かけてもいいですか」というようなことを送ってきていた。とりあえずぼくはこっちから電話をかけてみる。
「もしもし」
愛さんはすぐ電話に出た。
「晩酌してました?」
「いや、ここのところ、ぼく飲んでないんですよ」
「健康のため?」
「まあ、そうですね」
「お色気方面の原案のことなんだけどね」
「うん」
「やっぱりモモ隠ジャーの恋の相手はアカ隠ジャーがいいんじゃないかと思うの」
「うんうん」
「そのほうが入り組んでなくて、わかりやすいでしょ」
こちらの国で「隠者キャプチャー」の具現化を日々実感しているわたくしアカ隠ジャーは、とうぜんながらこの愛さんの案を全面的に支持していた。これこそは真の〝しめしめ〟である。




