第三幕 56
第三幕
その五十六
藤吉郎様は皇帝になって半年くらい経ったころから人が変わってきた。当初は友人みたいにあつかってくれていた、わたくし環三千世にたいしても、
「ビンビンマツタケ採ってこい」
といきなり命令してきている。
「大丈夫?」
その書状をもってきたエロエロレギンスさんはこうきいてくる。
「どうにかするよ」
ぼくは余裕の笑みをうかべながらそうこたえた。はったりというわけではない。スケベ根性に根ざした見栄でもない。
わたくし環三千世はいよいよ書状を受け取る数週間ほどまえより、いよいよ〝レッドビュート〟を上手くあつかえるようになっていたのである。イカバルタンだってこれで威嚇すれば、ビビリまくって退散していくであろう。
「レッドビュート?」
「うん。まあ機会があったら披露するよ」
レッドビュートというのは、ひらたくいってしまえば、特撮ヒーローの必殺技である。こちらではゴレンジャーのアカが使っている技だ。
ぼくがレッドビュートを使えるのは、先月からシーズン2が放映されている「隠者キャプチャー」において〝アカ隠ジャー〟がこちらの技を使っているからである。アカ隠ジャーは、この技のほかにも火輪弾という術も得意としている。
ちなみに火輪弾のほうは、中西さんのおウチに勝手にあがってきた黒十字忍団だかカットマンだかに、わたくしアカ隠ジャーは先日も一発お見舞いしている。連中は一目散に逃げていた。
「そのうまい棒をぶつければいいの?」
「そう。ちょっとジャンピングスローみたいにしてね」
バニラシェイク共和国で放映されている「隠者キャプチャー」が、ダークエネルギーだか磁場だかのバグのあれで具現化していることを昨年の夏よりぼくは密かに感じていた。
セブンでもローソンでもファミマでもない謎の変なコンビニではたらいている中西さんが「ヒラグモッチ」を探しているのも、だからバグのあれの作用だとぼくは思っている。
その「ヒラグモッチ」という茶器は、皇帝の座を藤吉郎様にゆずって現在はふ菓子国のワーカーホリック用の施設でガチニートになるための訓練を受けている大写毛様がじつは所有していた。いろいろつながっているのだ。とはいえ、大写毛様に無償でゆずってもらうのもちょっとわるい。
だからこちらはファミコンの互換機と五十種類ほどのカセットを差し出したのであった。大写毛様はファミコンそのものをご存じなかったので、たいへん感激していた。パックマンとかポパイとか、そういうシンプルなゲームにも衝撃を受けていた。
「超スゲーなこれ」
持ちつ持たれつである。
さて、妹弟子のモモヨくんは、ゴールデンウィーク明けの先週から〈国境なき無師団〉に加わっている。虫垂炎になってしまった無師団員の代役として急遽召集されたのだ。モモヨくんがいうには長くても二週間もすれば、またこちらにもどってくるとのことだった。それまではちょっと寂しいが辛抱である。
モモヨくんと共同生活をしていたこの一年のあいだ、ぼくは毎日晩酌をしていた。しかし先日、ストロング系缶チューハイの飲み過ぎにより廃人となられてしまった方の動画を観て、わたくし環三千世は改心した。なけなしのお金で酒を買うストロング廃人氏は大馬鹿者である。からだが衰弱しているのだからストロング系ではなく、まずご飯系を買うべきなのだ。せめてお菓子系でもいいからそちらを優先させろ、と廃人氏に説教したい。
そんなわけで、すくなくともモモヨくんが出向しているあいだは禁酒をする所存でいるのである。
「今晩は酒の代わりに抹茶ミルクでも飲むか……」




