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その四十九
隠者道場の創設者高桐恩師といまは博士とも呼ばれている白雲御老師とは弟子と師匠の間柄だが、あることで口論になって以降疎遠になっている。
御老師様がおっしゃるには、もう四年も口をきいていないとのことであった。
「どうして口論になったんですか?」
「うーむ……それはだね……」
御老師が口ごもりつつ告白したところによると、この二人は五月みどりと小松みどり姉妹にからんだことで、どうも仲違いしたようである。
五月みどりと小松みどりは実の姉妹だと説明する恩師にたいし、御老師様は、
「でも、どうして実の姉妹なのに、名前がいっしょなんだ?」
と素朴な疑問をぶつけた。なるほどたしかに不思議ではある。
「でしょでしょ。三千世さんも、そう思うでしょ」
「ええ」
とはいえ、この姉妹は歌手であり女優なのである。芸名というものがあるのだ。恩師はだから当然そのあたりを主張しつつ再度御老師様を説き伏せようとした。しかしそれでも御老師は、
「ケッ、そんな理由じゃ、真の意味は見出だせないぜ!」
と反論し、そのあとはけっきょく、
「ケッ、なんでぇ、木之内みどりとキャンディーズのミキちゃんの見分けもつかないくせによ」
「師匠だって、マイケル・ジャクソンとカール・ルイス、混同してたじゃないですかぁ」
と双方いっさい折れようとしなかったのである。
「でも博士のほうが悪いんじゃないの」
ややぽちゃロリ熟女さんがアーモンドチョコレートを頬張りながらいった。御老師もしぶしぶそれを認めてはいた。
「でも、わしはあいつの師匠だからさ、弟子の高桐のほうがグッと我慢して折れればいいじゃん」
「まあ意地を張るほどのことでもないですけどね――てきとうに師匠を立てておけばよかったのかもしれませんね、恩師も」
「恩師さん、そのとき虫の居所がわるかったのよ」
御老師様はいまでもいっさい折れる気はないようだった。だが困ったことに御老師は小蝶さんにからんだことで恩師に頼み事ができてしまったのである。ぼくもかつて、マーガリンの冷蔵庫ポジション問題により不和が生じていた妹におこづかいの補助をもとめたことがあるので気持ちはわかる。
「だからだね……つまり、できれば三千世さんに、仲を取り持ってほしいのですよ」
「なるほど、そういうことなんですね」
「やってくれますかな」
「ええ。御老師様は恩師の師匠ですから、わたしにとっては――まあ大師匠ですものね。あはははは」
「ありがとうございます」
「博士、よかったわね」
「うん。これで第一関門突破じゃ」
「とりあえずぼくは、なにをすればいいんですか?」
「うん、いまから話す。お茶もう一杯ちょうだい」
「はい博士。三千世くんは?」
「はい、いただきます」




