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その四十八
御老師はお茶請けにアーモンドチョコレートを出してくれた。知り合いの娘さんからもらったようである。御老師様はかなりご高齢の方なのだが、平然とアーモンドを噛み潰していた。
「嫁いだところが、辛いものの産地だから、こっちに来ると、コンビニで甘いものばかり買ってるようだ」
「いまはコンビニでなんでも売ってますもんね」
「〝小蝶ちゃん〟というんじゃが、三千世さん、知っとるじゃろ?」
「小蝶ちゃん!」
「そう」
「あの、もしかして……大写毛皇帝の正室の――」
「そうそう。わたしは、赤子のころから知っとるんじゃよ。あの子のこと」
「そうなんですか」
「うん。小蝶ちゃんの親父さんと、ちょっと付き合いがあったものでね」
「あのワルで有名だった」
「まあワルっていえば、ワルじゃが、いいところもあったんだよ」
「三千世くん、ドライフルーツもあるわよ」
「ありがとう、ロリロリさん」
御老師は若いころ、マムシ関連のものを熱心に調べていた。毒蝮三太夫、赤まむしドリンク、マムシの杉原を経たのちにやがて小蝶さんの実父と面識を持つ。
当時の御老師は、小さいころの小蝶さんをひざに乗せながら小蝶さんの実父氏とちょくちょく議論していた。で、そんな関係から小蝶さんは、いまでもなにかあると御老師に相談しているようなのだ。
しかし今回の相談は、わたくし環三千世も関わっているという。
「じつは博士に、三千世くんを連れてくるように頼まれていたの」
「そうだったんですか」
「だから息子にも事前に頼んでおいたんです」
「ワープロを使った、あの裏技のことですか?」
「ええ。ごめんなさい」
「そんなのいいですよ。ロリロリさん」
ややぽちゃロリ熟女さんは御老師をつねに博士と呼んでいるようだ。その博士がまたぞろしゃべりだす。
「ルービックキューブも早くも熱中しとるようじゃよ」
「ルービックキューブ?」
「三千世さん、献上したんじゃろ? 大写毛氏に」
「うーむ……あっ、青汁買ったときに当てたやつのことか」
「小蝶ちゃん、感謝しとったよ」
「そうですか――逆に恨まれそうですけどね。皇帝、政務をサボるようになっちゃったみたいだから」
そもそもは籠城中の暇つぶしのために献上したVHSを、その後も上様は熱心に鑑賞している。だから最近の藤吉郎様は、皇帝の業務まで実質こなさなければならない。しかしそれこそが、小蝶さんがぼくに感謝しているいちばんの要素なのだ。つまり正室様は、
「皇帝に、隠者になってもらいたいんですか?」
「そういうこと」
という方向に希望を見出しているのである。
「これは、高桐くんのアイデアなのかい?」
「いえ。恩師はいっさい関わっていません」
「〈国境なき無師団〉は、からんでないんだね」
「からんでいません」
「ということは、三千世さんのプランなのか――若いのに、じつに見事な政略だ」
政略といえば、小蝶さんの実父氏も相当政略的な人物だったらしく、娘の小蝶さんが大写毛皇帝のところに嫁いだのも、だからあからさまな政略結婚だと唐辛子の国内でもいわれている。
御老師の話によると、小蝶さんは当時結婚を約束していた男性がじつはあった。ちなみにその男性は、現在は皇帝の側近中の側近になっているみたいである。
「知らないかい? 金柑くんっていうんだけど」
「金柑……ああ、十兵衛さんのことかな」
「うん、そうだそうだ――十兵衛だったな、たしか名前は」
小蝶さんと皇帝の縁組は最初からうわべだけのものであった。ちなみに小蝶さんと十兵衛様は、いまでも密かに愛し合っているようである。




