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その四十三
翌日さっそく沼口隊長のところへおもむく。朝飯は食べなかった。紅茶だけ飲むと、ぼくは屋敷を出た。
「いってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
〈きなこ神社〉に着いてテントをのぞくと、隊長はリュックの上に突っ伏していた。ぼくはからだをゆする。
「ああ……うう……」
「だいじょうぶですか?」
「ええ……三、四日、なにも食べていないものですから……」
沼口隊長は前回のかつ丼以降また何も食べていないようだ。インスタントみそ汁のカップも空になっていた。
「やっぱりかつ丼ですか?」
「はい、お願いします」
「ほかには?」
「じゃあ、そば系も、お願いします」
今回はコンビニではなく、店のものを食べさせてあげることにする。これからあることをお願いするので、サービスしておこうと思ったのである。
しかし隊長は寝返りをうつのもやっとだった。しかも仰向けのまま白目をむいてピクついたりもしている。仕方がないので、ぼくはここまで出前を届けてもらうことにした。
「もしもし、おはようございます」
「はーい〈お食事処松葉〉です」
「あの、かつ丼大盛りとざるそば大盛り。あと、きつねうどん一つお願いします。いや、きつねうどんは普通盛りでお願いします」
〈お食事処松葉〉は朝の七時から店をやっている。こんなに朝早くから出前を頼んだのははじめてだが、どうやら受け付けているようだ。
しばらくすると、夕子ちゃんがヘルメットをかぶって〈きなこ神社〉にやってきた。隊長と二人で拍手する。沼口隊長は自動販売機で買ってあげたコーラを飲んでいたので、先ほどよりは動けるようになっていたのだ。
夕子ちゃんはヘルメットのシールドをあげるとニッコリ微笑んでくれた。
「お待ち遠様。環さん、めずらしいところにいるわね」
「すいません、あっ、そうだ、食器どうすればいいかな?」
「このテントの横っちょに出しておいてくれれば、あとで取りに来ますよ」
「じゃあ、そうしておきます」
代金を受け取ると、夕子ちゃんは去っていった。沼口隊長は夕子ちゃんには興味がないようで、終始かつ丼だけを凝視していた。で、そんな隊長は、
「かかかかつ丼かつどーん」
と叫ぶと、まずはそのかつ丼を猛烈な勢いで食べだす。朝食をこのために取らなかったぼくも、きつねうどんを食べる。おあげに何か入っているのでは、と確認してみたが、なにも入っていなかった。良い兆しである。しめしめである。
沼口隊長はざるそばもかつ丼と交互に食べていた。やはり猛烈な食べっぷりであった。お食事中はお互い沈黙していた。セミの鳴き声と近くの空き地でゲートボールをしている高齢者の声がよくきこえた。
「ごちそうさまでした」
「はい――あの、隊長」
「はい」
「お願いがあるんです」
「うん」
「探検していただけませんか?」
「ええ。それはぜひ」
「ビンビンマツタケを採ってきてほしいんですよ」
「いやいやいやいや、それはさすがに無理ですよ」
「資金は出してくれると思うんです」
「うーむ……、しかし、これだけは、むずかしいですよ。死んじゃったらおしまいですからね。そうでしょ?」
「確かに……しかし、イカバルタンは、そんなに怖いんですか?」
「とんでもない連中です。奴らのテリトリーに入ったら百パーセント死にます」
「困りましたな……」
「ねえお兄さん、ほかのなにかだったら、わたし、いくらでも探検してきますよ。ね! ほかの案はありませんか? イカバルタン以外!」
ぼくは、ため息をついた。




