42
その四十二
沼口隊長経由でイカバルタンのことを知ったぼくは、屋敷にもどると、まずモモヨくんにそれをおしえた。モモヨくんはすぐ本をパラパラめくっていたが、「沼口探検隊のすべて」にもやはりイカバルタンの詳細については載っていなかった。
「後輩に頼んでみますね」
「お願いします」
まだデジタル化されていないVHSのなかにイカバルタンにかんする映像があるかもしれないと思い、ラベルをざっと見ていったが、バルタンうんぬんと書かれたものは残念ながら見当たらなかった。しかしラベルのタイトルと中身がちがうものもときどきあるので、そう落胆することもないだろう。
三日間ほどそんな感じでイカバルタンの情報を探すことに費やした。
ネットにも図書館にも情報は落ちていなかった。しかし三日目の晩に例の後輩さんから吉報が届く。
「キャオ」
「わたしも、キャオ」
イカバルタンなるものは、特撮怪獣映画に出てくる創作物だったのだ。
「これもダークエネルギーの磁場のバグのあれで、具現化したのかな……」
「具現化って?」
ぼくはモモヨくんにまたぞろ説明する。三原監督のワオキツネガラモンの具現化の話もモモヨくんに以前話しているのだが、そのときとおなじように今回もお目目をパチパチさせたり首をかわいくかしげたりしているだけだった。まあ無理もない。説明すればするほどこちらのクレイジー感がマンモス化するだけなので、わたくしチーフはてきとうに話をきりあげる。
イカバルタンは三原監督がメガホンを取った特撮怪獣映画に登場する一種の悪役で、シリーズ第三弾の「ガチガラモンの大ピンチ」では、主役のガチガラモンを秒殺してもいるようであった。
三原監督に頼めばこちらの作品を鑑賞することはできるかもしれない。しかし監督にはこのことは告げないほうがいいだろう。三原監督は生真面目な性格なので、謝罪をしに、その地へおもむくと思われるからである。
大写毛皇帝はワオキツネガラモンの騒動をいまでも根に持っている。三原監督が唐辛子帝国に謝罪をしに行けば、すぐさま拘束し、まちがいなく首をはねる。
イカバルタンの生息地では、どのような処置が取られるかはわからないけれど、まあ知らぬが仏である。そもそも三原監督に罪があるわけでもないのだ。バグのあれなのだ。なにも死ぬことはない。
「だけど、モモヨくんの後輩さんはすごいね」
「あの子、もともと御老師様のところで勉強してた子なの」
「それから恩師の道場に入ったんだ」
「そう。だからわたしのこと、いちおう先輩って呼んでくれてるけど、キャリアはけっこう長いのよ。歳はずっと下だけどね」
「こんど来てもらおう。お礼しなくちゃ」
「でもあの子、忙しいからなぁ……」
「そんなに忙しいの?」
「うん。それにあの子、けっこう大きいですよ」
「ああ、そうなんだ」
「チーフの好みじゃないと思うよ」
「うん。べつに、そういうあれでじゃなくてさ、いろいろお世話になってるから」
「『3A』って、誰なんですか? 今朝の時点で、好きな異性、ナニしたい、娶りたい、三部門で一位じゃないですか」
モモヨくんはこの晩もぼくとおなじペースで米焼酎のお湯割りを飲んでいた。またぞろ居間で寝てしまうかもしれない。一時間ほど居間で仮眠したのちに風呂に入って自室で正式に寝るのがモモヨくんの習慣になりつつある。仮眠専用の綿毛布をかけてあげるのは、ぼくの習慣になりつつある。
片付けを済ませたのちに寝室へ行く。和室である。六畳間である。今朝あげたはずの布団が敷いてあった。押し入れからエロエロレギンスさんがルービックキューブをもって出てきた。
「ああ、しばらく」
「これ、どうしたの?」
「青汁買ったとき、当てたんだよ」
「けっこう、むずかしいね」
「おれも苦手です」
「上様からお手紙よ」
「またメロンの催促かな」
「たぶんね。どうするの?」
「そのうち都合ついたら上洛するよ。上様にお願いしたいこともあるんだ。沼口隊長も連れていきたいんだけど、お嬢さん、許可取れるかな」
「許可は取れるけど……沼口隊長って誰?」
「探検してる人。上様はわかるよ。あっ、それ、上様にもってってよ。ついでに」
「うん――上様って超もの好きだから、きっと夢中でカチャカチャやるわ」




