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その四十
年配の旦那はキャンプで知り合った女子たちと今度飲み会をやるともいっていた。はったりかもしれないけれど、しかし、すくなくともキャンプのほうがホームセンターでナンパするより可能性が高いような気がいよいよしてきた。
「ホームセンターって、客?」
「はい」
「客はさすがにむずかしいだろう」
「でも動画で観たんですよ」
「店員なら、まだ可能性はあるだろうけどな」
「そうですね――あっ、おれ、青汁買ってきますよ」
「おお、あの姉ちゃんか。おれもさっき試飲したよ。ちょっとなんか、かわいいよな」
「ライオン丸に出てた娘に似てませんか? 風雲ライオン丸のほう。馬車に乗ってる」
「うんうん、宮野涼子な。似てるかもな」
ぼくはアイスのお礼をいって、年配の旦那と別れた。店内にもどって青汁を買う。
「くじ引き、一回どうぞ」
「はい」
「あっ、三等賞です」
三等はルービックキューブだった。
「おめでとうございます。はい、これ」
「すみません」
自転車のかごにそのルービックキューブと青汁を入れ、屋敷に帰ることにする。
「やっぱり異性としゃべるって、胸が熱くなるな。あの程度の会話でも」
最初の信号待ちをしているときに気が変わる。〈きなこ神社〉に、ともかく行ってみることにしたのだ。
ぼくは前のかごに入れてあるルービックキューブをカタカタさせながら立ち漕ぎで神社に向かった。
キャンプ講習の受付所はすぐみつかった。テントの横っちょにちっちゃめの木の看板が立て掛けられていたのである。
「すいませーん。あっ!」
テントのなかを覗くと、人が倒れていた。声をかけても返事がない。
「だいじょうぶですか。だいじょうぶですか」
ぼくは倒れている人をちょっとゆすってみた。
「ああ……うう……」
「救急車呼びましょうか?」
「いいえ、平気です……腹減ってるだけですから……」
「はあ……」
「もう三、四日、なにも食べてないんです……」
先ほど年配の旦那がいっていたことを思いだす。食べ物を納めることで講習料を払ったことに実質なるのだった。
「なにか買ってきますよ。なにがいいですか?」
「それじゃ……かかか、かつ丼かつどーん」
とりあえずいちばん近いコンビニでかつ丼を買ってくることにする。かつ丼弁当のほかにインスタント味噌汁とあんパンとたまごロールとベビースターのデカいやつとペットボトルのお茶と紙パックの牛乳も購入した。
「どうぞ」
ぼくは神社にもどると、先のものが入ったレジ袋をキャンプの講師に手渡す。
「すみません。いただきます」
講師はかつ丼弁当を勢いよく食べだした。あっという間に食べ終えると、つぎはあんパンにかじりつく。そしてときどき牛乳を注入しながら、ベビースターのデカいやつもポリポリやっている。
「食べたら元気出てきました」
「よかったですね」
「むかし半月ほど、ベビースターだけで暮らしていたことがあるんですよ」
「どうしてまた……」
「遭難したんです――悪食怪獣たべチッチを捜索していたときに……」
「悪食怪獣たべチッチ?」
「たべチッチは、ベビースターラーメンが大好物なんです。それでおびきよせるために、われわれ探検隊はベビースターを大量にリュックに入れておいたのです。結果的にそれで生き延びることができたわけですが――」
「講師さん、探検家なんですか?」
「ええ。沼口探検隊っていうところで隊長をやってました」
「え? あああああ!」
「〝キャオ〟出さなくちゃ」
「そうでした。キャ、キャオ!」
キャンプ講習の講師はあの沼口隊長だったのである。




