39
その三十九
年配の旦那のお話をもっとききたかったぼくは、
「なんか飲もうぜ」
という旦那の誘いにも喜んで乗っていた。おもてのベンチに移動する。ベンチの周辺にある自動販売機を見て、
「おお、棒のもカップのもあんじゃん」
とコーラからアイスに買うものを変更した年配の旦那は、こちらにも、
「ジャパン氏もアイスにするか?」
ときいてきた。
「うん、たまにはアイスでも食べますか」
「なにがいい?」
「うーんと、じゃあ、その、デラックスバニラなんとかってやつでいいですよ」
「『いいですよ』って、これ、いちばん高いやつじゃねぇかよ」
「うん。だから、それにしておいてやりますよ」
年配の旦那はこちらのあたまをたたくふりをしながらも、その高いアイスを買ってくれた。
「ありがと」
「おれはミント系だな」
ぼくはプラスチックのスプーンでアイスを一口頬張ると、すぐまたたずねた。
「ソロキャンプしてる女子って、どんな感じなんですか?」
「どんな感じって、まあいろいろだよ。ジャパン氏が好きそうな子だって、いたよ」
「小柄系いました?」
「うん、いたいた。おれがしゃべった子も小柄だったよ」
「ホントですかぁ!」
アイスを食べながら思わず身を乗り出してしまう。
「落ち着けよ」
「はい」
「その子はね、キャンプも好きだし、登山も好きだし、釣りも好きなんだって、いってたな。あとバーベキュー」
「おれ全部きらいですよ、それ」
「いや、おれだって、ホントは好きじゃねえよ。でも、そんなことばかりいってたら、女子とお話できないだろ」
「まあ、それはそうですね……」
「だからおれはさ、まず講習受けたんだよ」
「講習? なんの講習ですか?」
「キャンプの講習。Kの森総合公園の掲示板に貼ってあってさ」
「掲示板なんてあったかな……」
「あるんだよ。ジャパン氏は建物のなか、あまり入ったことないだろうけど、多目的ルームとかも借りられるんだぜ。こんど館内入ってみろよ。毎日公園行ってるんだから」
「キャンプの講習って、多目的ルームでやってるんですか?」
「ちがうちがう。公園はぜんぜん別。受付は〈きなこ神社〉でやるんだよ。あそこの神社知ってるだろ?」
「知ってますよ。〈きなこ神社〉は。じゃあ神社に申し込むんですか?」
「ちがうちがう。神社のどこかにテント張って寝てる人がいるんだよ。場所はそのときによって、まちまちなんだけど」
「はあ」
「その人に直接申し込むんだよ」
「その人が講師なんですか?」
「そういうこと」
年配の旦那がいうには、こちらのキャンプ講習なるものは、とくに講習料などはなく、なにかしら食べるものを、いわゆる〝気持ち〟としてもっていけばいいらしい。
「米五キロとか酒二升とか、そんな感じですか?」
「いやいや、そんなちゃんとしたものじゃなくても平気だよ」
「たとえば?」
「コンビニで売ってる弁当とかおにぎりとか」
「パンでも?」
「うん、菓子パンとかでも、ぜんぜん大丈夫」
ちなみに年配の旦那は、この講習を二日受けただけで、かなりキャンプの知識が付いたらしい。




