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その三十八
昼飯を食べたのちにサージェントペパーのティーシャツに着替える。もちろんホームセンターへ行くからである。
ビートルズのアルバムのなかで、いちばんよく聴いているのは、おそらく「サージェントペパー」である。野口五郎のアルバムでいちばん好きなのは「ラストジョーク」である。
先ほどブラウジング中に上村香子の若いころに偶然ヒットし、しばし心を打たれたので、きょうの好きな異性ランキング一位は上村香子である。
しかし、これからおもむくホームセンターには、その一位の座を奪う新星がいるかもしれないのだ。三十五、六のころの松尾嘉代に匹敵する婦人が性欲を持て余して収納関連のコーナーをうろうろしているかもしれないのだ。むらむらしているのだ。うじゃうじゃなのだ。
モモヨくんには、
「図書館に行ってくる」
と念のためいっておく。モモヨくんはわたくしチーフが動画を観て研究していたことに、うすうす気づいている可能性もある。ここは用心である。
どこのホームセンターに出立しようかちょっと迷ったが、猛暑日だったので、とりあえず屋敷からいちばんちかいところへ出陣することにした。
無事到着し、駐輪場に自転車を駐めると、ぼくはまず深呼吸をした。そして投稿者のアドバイスを思いだし、
「さりげなく、素敵に、コロ付き収納ケースを物色し、スマートに、さわやかに、店員さんと間違えたふりをして声をかける。決して異性を渇望していることを悟られてはいけない」
と心の中で自分にいいきかせる(声に出している可能性もある)。
ホームセンターの店先では青汁の試飲販売がおこなわれていた。販売員は大柄ではあったけれど、女性だった。ぼくは勧められるままに紙コップを受け取る。
「ね! おいしいでしょ」
「そうですね」
だがしかし、購入はせずにいったん保留とする。
「ちょっと探すものがあるんで、またあとで」
「はーい♪」
販売員は明るかった。そして誰かに似ていた。しばしかんがえたすえに「風雲ライオン丸」に出ている幌馬車で長旅をしている娘だと気づく。
スマホでライオン丸関連を調べていると、うしろから肩をトントンと叩かれた。公園で一時よく会っていた年配の旦那だった。年上だが走力はぼくよりもずっとある。
「おひさしぶりです」
「しばらくだなぁ」
「旦那さん、走ってますか?」
「うん、走ってるけど、最近はもっと遅い時間になっちゃうんだ。だからジャパン氏とはきっと行き違いなんだよ」
年配の旦那はわたくし環三千世のことを〝ジャパン氏〟とか〝アカレンジャー氏〟などと呼んでいる。もうとっくにはきつぶしてしまったが、一時期赤いランニングシューズでぼくが走っていたからだ。
「ジャパンっていえば、コスプレバー、いまでも行ってるんですか?」
とそのわたくし〝バトルジャパン〟がたずねると、年配の旦那は、
「いや、近ごろはコスプレバーにもメイド喫茶にも行ってない。金かかるから」
と指でつくった銭マークを強くアピールしながらいってきた。なんでも旦那は、そのコスプレバーの代わりにキャンプにいまは凝っているようなのだ。
「ここのホームセンターはさ、けっこうキャンプ用品が充実してるんだよ」
「そうなんですか」
「ジャパン氏はなに買いに来たんだ? なんかアウトドアの趣味とかあるのかよ?」
「いや、おれはアウトドアとかは、ぜんぜん嫌いなんですよ」
「外系は走るだけか?」
「そう」
「おれもまえはそうだったけどさ、しかしキャンプはスゲーいいぞ」
「でも、テント張ったり焚き火したり、面倒ですよ」
「それでも面倒なことをする価値があるんだよ」
「どんな?」
「異性との出会いさ」
「え!」
「あんがいソロキャンプしてる女子がいてさ」
「うんうん!」
「焚き付け材とかちょっと分けてあげたりして、けっこう仲良くなったりできるんだよ」




