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その四
ふらふらの男性は三原さんという方である。年齢はぼくよりもいくつか上みたいだった。しかしそんないい歳をして、三原氏は〝コスプレバー〟にお金を注ぎ込んでしまった。文字通りすっからかんになってしまったのである。
コスプレバーにおもむくために○○島からはるばるこちらまでお越しになっていた三原氏は、そんなわけで帰郷もできなくなる。だから途方に暮れてイートインの席で長居していたのだ。
とりあえず恩師にメールで問い合わせてみる。恩師は、
「十万円ほど貸してやりなさい」
とお金の利用をあっさり許可してくれた。ちなみに恩師は一年ほどまえから〈国境なき無師団〉という謎の組織の活動に参戦しているのである。
「ありがとうございます。国元に帰ったらお金をもって、またこちらに来ますので」
「こっちに来るって、三原さん、もしかして、またコスプレバーに行くんですか?」
「ええ。まだ目的を達していませんからね」
先の質問をしたモモヨくんは首をかしげてぼくのほうを見る。ぼくもモモヨくんに首をかしげてみせた。
三原さんが入れあげているコスプレバーのことは、ぼくも知っている。先にちかくの公園でジョギングしていると記したが、そのときにたまにお会いする年配の旦那が店の常連で何度か話をきいているのだ。
店の名は〈秘密戦隊〉である。読んでくださっている方もこの名でピンときたかもしれないが、要するに戦隊ヒーローだとか仮面ライダーだとか、そういういわゆる〝特撮〟関連のコスプレが専門の店なのである。
じつをいうと、わたくし環三千世は特撮にはかなり精通している。ぼくは基本的にずっとのらくらして生きてきたのだが、その長い歴史のなかには「図書館紀」や「時代劇紀」や「三畳間紀」などがあって、つぐみさんと同居していたころの後半はけっこう重厚な「特撮紀」だったのだ。
年配の旦那に特撮に詳しいことをいわなかったのは、その〈秘密戦隊〉なる店に付き合わされるかもしれないと警戒したからである。ぼくは飲みに誘われると断れないたちなので、自分の懐具合を冷静に分析して、そのように防御策を敷いておいたわけなのだ。わたくし環三千世はそういう類の紳士なのである。マンモスジェントルマンなのである。
ぼくは十万円を渡したのちに界隈に疎い三原さんをもよりの駅まで連れて行った。別れ際に三原さんはお金の担保なのか、ガラモンだかピグモンだかのビニール人形をこちらに手渡してきた。
「あれ――ガラモンて、もっと赤かったよな……」
やがて三原氏は、
「体勢を立て直して、すぐもどってきますから」
と再度お辞儀をして電車に乗り込んだ。




