36
その三十六
朝飯を食べたあとは、例によってキャプチャをしたり、古本屋で最近買った日本文学全集の端本を読んだりして過ごす。
十時にいったん休憩し、お茶を飲む。マグカップを洗っていると、スマホが振動した。天堂愛ちゃんからのメールだった。愛さんは、
「そろそろ次の回の原稿お願いします」
うんぬんというようなことをハートマーク入りで記していた。
「そうだそうだ、わすれてた」
まえにも述べたが、すでに放送もはじまっている三原監督の特撮ヒーローの作品に、わたくしチーフは深く関わっている。お色気方面の原案を提供しているのである。
番組のタイトルも「忍者キャプター」をベースにしたいという三原監督の希望を考慮して、
「じゃあ『隠者キャプチャー』って、いうのは、どうですか?」
とぼくが決めたのだ。ちなみに愛さんが先月いっていたところによると、初回放送時の反響はかなりのものだったようである。
ぼくはモテモテノートに記してあるいろいろなランキングを参考にしつつ、テキストエディタで思いつくままに〝お色気〟関連の原案を書き、メールに添付して送信した。
屋敷のまえに郵便配達のバイクが停まり、チャイムが鳴った。
出ていくと、レターパックを差し出してきた。礼をいってサインをする。
レターパックはモモヨくん宛のものである。二階にいるモモヨくんを呼ぶと、すぐ降りてきて、その場でなかのものを取り出した。
「ああ、ぜんぜんきれいだ」
レターパックで送られてきたものは本であった。モモヨくんの若い後輩さんがどこかで手に入れて送ってきてくれたらしい。
「見て、チーフ」
「なになに『沼口探検隊のすべて』か――こんな本あるんだ」
「後輩の子が偶然みつけたの」
居間の座布団に正座したモモヨくんは、さっそくその本をパラパラめくり出した。
「ふーん、『神秘の生物マーシシマイ』のときは、お弁当のことで、スタッフとずいぶんもめてたのね」
「ねえモモヨくん」
「ん?」
「そこにさ、ギンギンアンデスっていうメロンを探した回のエピソード載ってないかな」
「どうかな――探してみるね」
モモヨくんの拾い読みの速度があがる。
「あっ、ありますよ」
「キャオ」
「読みますか?」
「うん」
本に記されていたところによると、ギンギンアンデスの回は、いわゆる〝やらせ〟が週刊誌上で発覚したため、ほんらいあった続編が、どうもお蔵入りになったらしい。
やらせは元内縁の妻が告発した。元内縁の妻は放送上では隊員の一人がギンギンアンデスを食べて三日三晩イチモツが超元気だったことになっているが、じっさいはぜんぜんギンギンではなく、せいぜい〝ふにゃギン〟くらいだったと訴えていた。
「じゃあやっぱり、ただのメロンなんだな……」
元内縁の妻は「マーシシマイ」もやらせだったといい、メスのマーシシマイの着ぐるみに自分が入っていたとも証言している。
この告発以降番組の人気は徐々に落ちていき、一年後には打ち切りになる。
それでも沼口隊長だけはやらせを最後まで否定し、番組が終了してもしばらくは探検を自主的におこなっていた(らしい)。




