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その三十五
翌朝の恩師は、ゆうべ話したことを再度おしえるため、
「裏に来るように」
と弟子たちに指示を出した。
これは白雲御老師のことではない。テレビのことである。モモヨくんが疑問に思っていた「テレビの電源が入っていないのにテレビが点く」という謎を、昨夜恩師より解いてもらっていたのだ。
蔵の横っちょにはピンク色のコンポスターがあって、そこには業者に摘んでもらったユリノキの花がたくさん放り込まれてある。恩師はコンポスターのなかを覗くと、
「うんうん、これだけあれば、じゅうぶんだ」
と満足していた。ゆうべぼくたちもはじめて知ったのだが、蔵の横っちょにあるピンク色のコンポスターは堆肥や腐葉土をつくるために設置されてあるのではなく、陶芸用の土のために設けられているのだった。
この土をつかって作るものは、例のチューリップのオブジェである。こちらのチューリップは、あらゆる国の電波をキャッチして、もよりのモニターに映し出してくれるのである。電源も必要ないのである。
恩師はこれから別荘の通称〝陶芸船〟に籠もって、しばらくそのチューリップ作りに精を出す。ある国の国王より、一つ譲ってくださいとお願いされたからだ。
恩師が参戦している〈国境なき無師団〉なる組織は、なまじ意識が高いために争いとかになっちゃって愚かな戦争などをしてしまう連中を〝無師〟化するために、命を賭して活動しているのである(やってる感を出しているだけの可能性もあるが、とにかくそういう活動をしているらしいのである。ただし詳細は不明である)。
「恩師、その〝無師〟って、なんですか? こちらのほうも読んでくださっている方のためにも、わかりやすく説明してください」
「まあひらたくいえばだね、モモヨくん――うーん、ニートだな」
「こっちもニートですか?」
「まあニートとは、ちょっとちがうんだけどさ――うーん、つまり、ニートもいろいろあるけど……」
「隠者もニート。無師もニート。のらくらもニート。冷飯もニート……」
「大雑把にいえばな」
恩師は茶碗一杯分程度の土を、
「ほかの土と混ぜるから、これくらいでいいんだ」
と専用のケースに詰めると、朝飯も食べずに別荘へ向かってしまった。
「しばらく陶芸船にいるから。なにかあったらメール送ってくれ」
「わかりました」
「ひきつづき、キャプチャも頼むね」
「はい」
「じゃあ、いってきます」
「お気をつけて」
ゆうべ国境なき無師団関連の話をしているときにさりげなくきいてみたのだが、そのある国というのは、すくなくとも唐辛子帝国ではないようだった。
「朝ごはんにしましょ、チーフ」
「そうしよう。モモヨくん、なに食べたい?」




