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その三十四
色白のややぽちゃロリ熟女さんは、
「日に焼けちゃうから」
と帰っていった。ぼくはいつもならもうすこし涼しくなってから走るのだけれど、きょうは恩師が帰国してくるので、炎天下のなかをジョギングしてしまうことにする。
屋敷にもどったぼくはクールダウンも兼ねて通常より長く入浴する。炎天下でも公園だとぼちぼち走ることができる。女子がいればさらに走れる。そしてその女子が小柄、あるいは色気がたしょうなりともある人だったならば、さらにさらにわたくし環三千世は走ることができるであろう。
「そこまで強調することでもないか」
風呂からあがると居間のほうで、笑い声がする。覗いてみると、恩師がモモヨくんとしゃべっていた。
「恩師、お帰りなさい。すみません。恩師が帰ってくるまえにと思って早めに風呂に入ったんですけど――」
「いやいや、かまわんよ」
「いま、支度してきますから」
「三千世さん、いそがんでもいいよ」
寝室にいったんさがったぼくは寝間着用のティーシャツをまず手に取ったのだが、かなりよれよれだったし、プリントされているドストエフスキーも苦悶の表情だったので、新品の茶色のポロシャツを着ることにした。
居間に行くと恩師は、
「ワシも風呂入っちゃうよ。それから一杯やろう」
と下着類を手にもちながらいってきた。もうすぐ四時だから、まあ晩酌にしてしまってもいいだろう。
モモヨくんはその晩酌の用意をもうしていた。居間のテーブルにはハマグリ寿司のパックも三つ置いてある。なんでも恩師が途中で買ってきたらしい。
ぼくは恩師が帰国してきたら、まずおききしてみようと思っていたことがある。それは某博士のことである。
藤吉郎様はとりあえず博士のことはあきらめているので、とくに竹膳家のためだとかエロエロレギンスさんのためだとかではない。ただ個人的に興味があるのだ。
恩師が風呂からあがってきた。のどを鳴らして水を飲んでいる。寝間着に着替えると、いよいよ晩酌がはじまる。
「恩師、まあ一杯どうぞ」
ぼくはお酌をした。
「ありがとう、三千世さん」
「恩師、お元気そうでなによりです」
今度はモモヨくんがお酌をする。
「うん、ありがとう。モモヨくんも遠慮しないで、やりなさい」
「はい。料理しているときからグイグイやってます」
恩師の晩酌はいつも熱燗である。夏でも熱燗なのである。ぼくは米焼酎のお湯割りを湯呑みで二杯ほど飲んでから、博士のことをさっそくきいてみる。
「恩師、白雲博士って知りませんか?」
「知ってるよ」
「キャオ」
「知ってるもなにもわたしの師匠だよ」
「キャオ(モモヨくん)」
「白雲博士って、ロボット工学かなんかやってる人ですよ」
「うん。でも、それはねぇ、ロボット工学じゃないんだよ。古代文明がつくったロボットをどうにかしようとしてるんだ。長年ね」
「キツネのロボットとかですか?」
「そうそう。三千世さん、よく知ってるね」
恩師は白雲博士のことを「御老師」と呼んでいたので、ぼくも恩師に合わせて博士を「御老師」と呼ぶことにする。
恩師がおっしゃるには、この御老師はそもそも博士などではなく、日がな一日ごろごろしつづける、それも超人的に長期間ごろごろすることを自分に課しているような人物だったらしい。
しかしインドだかムー原人博物館だかに行って古代の謎の文明の存在を偶然知ると、以降はそのことばかりを探求するようになったみたいである。
「だから本質的には御老師はいまでも〝隠者〟なんだよ」
「ぼくたちと、おなじなんですね」
「そう。いま御老師は『フェイスメタン』っていう巨大企業に資金を提供されて、その古代ロボットの研究はしてるんだけど、あれだって、本人はロボットでなにかをしたいわけじゃないんだ」
「じゃあ、なんでやってるんですかね」
「隠者人生を全うしたいからだよ」
「恩師、隠者人生を全うするって、どういう意味なんですか? 読んでくださっている方のためにも、わかりやすく説明してください」
モモヨくんが恩師にお酌をしながらこうお願いした。
「うーん、まあ現代風にいえば、ニート生活を謳歌するって感じかな」
「それじゃあロボット研究は、やってる感を出すためなんですか?」
「いやいや、そんなことはない。御老師は好きでやってるんだよ。ただそのロボットで世界を征服しようとか、そういう野望はいっさいない、ということさ」




