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その三十二
モモヨくんは恩師の好物をよく知っていて、朝から晩御飯の献立をあれこれかんがえていた。
こんなときは半端に口を出さないほうがいいのである。猫対策としてなぜかまたぞろペットボトルを木のまわりに配置しているが、そちらも口を出さないほうがいいのである。いっしょに暮らしていると、それくらいのことはわかってくるのである。
ぼくは晩飯のほうはモモヨくんに任せることにし、恩師の好きな日本酒を買いに行くことにする。
恩師の好きな日本酒はもよりのスーパーにも売っているが、中西さんに会いたいので、そして牧れいのテレカも使えるので、ぼくは例のセブンでもローソンでもファミマでもない謎の変なコンビニまでおもむくのである。
大写毛皇帝より頂戴したテレホンカードは、こちらでも何店か使えるところがあるのだけれど、もよりのスーパーは、ざんねんながら加盟店ではないのだ。
きょうの中西さんはシフトに入っていなかった。ATMですこしばかり現金をおろしたのちに日本酒を二升買って、すみやかに屋敷にもどる。
「ただいまぁ」
「おかえりぃ」
「おれ、ちょっと用事あるから、またすぐ外出するよ」
「わかりました」
「まあ走ってくるんだけどね」
「はーい」
いまのぼくはポロシャツに短パンという格好だが、ほんとうの用事はいつものジョギングではない。先ほどコンビニに自転車で向かっているときに、
「芝生広場の水飲み場のあるベンチでお待ちしています」
とややぽちゃロリ熟女さんがメールを送ってきていたのだ。
まつりごとを大名たちに実質丸投げし、京子が実家にうっちゃっておいた古いブラウン管テレビに毎日かじりついている大写毛皇帝は、最近とくに「沼口探検隊がゆく」というビデオに熱中している。かつてモモヨくんが指摘した川口探検隊によく似た例の番組である。
上様がとくに気に入っている探検は、沼口隊長たちが必死になって「ギンギンアンデス」というメロンを探す回のやつである。
ちなみにそのギンギンアンデスを探検隊が血眼になって探しているのは、このメロンを一口食べるだけで、いわゆる男のイチモツのほうが三日三晩超元気かつ無制限で使用可能という状態になるからである。
もうすぐ五十になる皇帝は近ごろあれなのか、こちらの果物に異常な関心を示す。
「上様、でしたらセンセ殿に探してもらったら、どうですか?」
と十兵衛さんがまたぞろよけいなことをいってしまった。
「よし! センセ殿に書状を出せ」
で、最後通牒が届いて、わたくしセンセが、この任務を請け負うことになってしまったのである。
とりあえずぼくは、いろいろな国を行き来しているややぽちゃロリ熟女さんに相談してみた。
「うーん、『沼口探検隊』ね――わたしは観たことないわ……」
「どこの国のテレビ番組かも、いまのところわからないんですよ」
「困ったわね。妹さんは人質に取られちゃってるし」
「ええ……」
「わたしの顧客さんたちに、それとなく聞いてみるわね」
「お願いします。デジタル化したの、外部ストレージに保存してあるから、いつか番組観てくださいよ」
「ええ――でもわたし、今月電気代払えるかわからないから、おウチじゃ鑑賞できないかもしれない……」
「ロリロリさん、そんなに生活たいへんなんですか?」
「仕事のほうはぼちぼちあるんですけど、時空管理局への会費が値上がりしちゃって」
「はあ」
「それと何年かまえなんですけど、娘がお店を出すとき、蓄えてたお金を全部貸してしまったんです」
「娘さんのほうからも、まだなかなか返ってこないんですね」
「小さいときに父親を亡くして苦労してる子なんで、つい過保護にしてしまって……」
「お子さんは、お一人ですか?」
「もう一人、息子もいます。引きこもりですけど」
このときもぼくは、もっている現金をややぽちゃロリ熟女さんにそっと手渡したのだった。
「いつも、すみません」




