第二幕 31
第二幕
その三十一
ふた月ほど隠者屋敷で暮らした天堂愛ちゃんは、満を持してバニラシェイク共和国へと出向していった。三原監督の作品に出演するためである。
三原さんは当初から、ぼくがプリントアウトした天堂愛ちゃんの静止画を役者選びの基準にしていた。だから、
「この娘さん、つかってくれませんか」
というこちらのお願いも、
「うわっ、本物だぁぁぁ!」
と一発で受け入れてくれたのだった。
三原監督は特撮ヒーローの番組を撮影するにあたって、スポンサーサイドから「少しはお色気も交えてくれ」うんぬんと要望されていた。すばらしいスポンサーである。マンモスファンキーである。
ところが監督はそちらの才能はまるでなかった。いくらアドバイスしても、おもしろいアイデアを出せないのだ。
そんなわけでわたくし環三千世は、その特撮のお色気方面の原案も引き受けているのである。
「でも、いろいろ引き受けちゃって、大丈夫ですか? チーフ」
「まあ、面倒だけどね」
モモヨくんがいった〝いろいろ〟のなかには、大写毛皇帝より要請を受けたものもいくつかある。
「面倒だったら断っちゃえばいいのに」
「たしかに普通ならぜったい断るけどな……」
しかし上様から頼まれたことは、どんなことであってもすべて成就させなければならない。
「これは困ったことになりましたぞ、三千世殿……」
「どうしてですか? 藤吉郎様」
「ひらたくいえば人質ですよ」
「人質?」
「妹さんが三河家の嫁になるということは、人質に取られたこととおなじなんです。三河殿は上様の第一の子分みたいなもんだから」
ワオキツネガラモンとの和睦が成立した翌々日、さっそくぼくはブラウン管テレビとビデオデッキを上様に献上した。部屋のスペースが空いたので、義姉もよろこんでいた。
ぼくは、ふたたび上様から宴の誘いを受ける。ブラウン管テレビを実家にうっちゃっておいた妹も持ち主だということで招待される。で、そのさい、十兵衛さんの、
「京子さんは、独身なのですか?」
「ええ。いい人いたら、お願いします」
「いますよ」
という紹介により、先にあげた三河家の跡継ぎ息子と結婚することとあいなってしまったのである。
妹は兄貴の苦労も知らず、玉の輿に乗った気分でいて、このあいだ会ったときも、毎日乗馬の練習をしているなどと楽しそうにいっていた。
「料理も掃除も家臣の方たちがやってくれるの。ビン缶ペットボトルの回収日も気にしなくていいし。こっちは最高よ、お兄ちゃん」
いい気なものである。きょうのわたくし兄貴は前日にひきつづき、モモヨくんといっしょに屋敷の大掃除をしているのだ。ビン缶ペットボトルも指定の場所に出してきたのだ。キャプチャもしているのだ。
とはいえ、屋敷の大掃除は上様とも京子とも関係はない。あしたいよいよ恩師が帰国してくるので、ぼくとモモヨくんはこの作業を入念におこなっているのである。
「ねえ、チーフ」
「ん?」
「やっぱりパンティーはいてると、廊下を雑巾掛けするときとか、おもいきってかがめるからいいですね」
「でしょ」
こちらも後日談になるが、モモヨくんはおかげさまで、すでにパン断ち生活を卒業している。ちなみにこれは偶然の産物ということもできるのである。
まえの章でも記したが、ぼくは天堂愛ちゃんと遭遇したあの日、宴の席に向かうまえに衣装部屋で着替えをした。
そのさいエロエロレギンスさんもお着替えの一環としてご自身のパンティーを脱いでいたのだが、そのパンティーは一環後、身につけることを自ら辞退して、こちらのポケットにねじ込まれることとなっていたのである。
「ねえ、チーフ、ポケットにこんなパンティーが入ってたんですけど、どうしたんですか?」
屋敷に夜遅くもどったぼくは、翌日たしょう寝過ごしていた。だからモモヨくんはぼくのぶんの洗濯もついでにやってくれたのだ。ところが脱衣かごに着ていたものを放り込んださい、ポケットにパンティーが入っていることを完全にわすれていたのである。
「あっ、そそそ、それはね――」
先のような質問をされたわたくしチーフは、つぎのような言い訳をとっさに述べた。
「それはね、モモヨくんに悟ってもらおうと思ってさ、ある高名なマンモスジェントルマンから、お借りしてきたんだよ」
「なんかすごそうな人ですね」
「モモヨくん、もうパンを断つ期間は終わったよ! これからはパンティーをはき、そして食パンやサンドイッチなども気軽に食べるんだ!」
「でも……」
「モモヨくんはもうパンを乗り越えたんだ! ノーパン生活を経て乗り越えたんだよ。ぼくはそれをモモヨくんに伝えたくて、パンティーをわざわざ借りてきたのさ。そのチューリップがプリントされた、ひらひら付きのパンティーをね」




