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その二十八
大写毛皇帝のお部屋には高価そうな骨董品がたくさんあった。しかし骨董屋におっつけられたそのビデオデッキは使える代物ではない。年式が古すぎるとかメーカーがどうのこうのというのではなく、そもそもビデオデッキではないのである。レーザーディスクプレーヤーだったのだ。
「これ、お高くとまってるだけで、いちばん使えないんだよな……」
ぼくはレーザーディスクが実質滅亡してしまったその経緯をざっくり話し、そして隠者屋敷のほうからVHS用のデッキをあらためて持ってくると皇帝に約束した。
「じゃあ、骨董屋がオレを騙したのか」
「ビデオが観られますって、その骨董屋さん、いいましたか?」
「いった」
「うーん……皇帝を騙すつもりはなかったんでしょうけど、まあきっと、あまり詳しくないんですね、機械のほうは」
「あの野郎……」
「すぐもってきますよ。あっ、そうだ、テレビはありますか?」
「テレビ?」
皇帝のお部屋を見回してみても、どこにもテレビはなかった。
藤吉郎さんに耳打ちすると、
「ないですな。テレビなんて」
とのことである。
「テレビももってきますよ。実家に一台、むかし妹が使ってたのがそのまま残ってるんです」
義姉もそのブラウン管テレビを捨てるに捨てられずに困っていたのだ。一石二鳥である。
皇帝はぼくがビデオの説明、およびかつて自分がレンタルビデオ店において繰り広げた五度におよぶ人気作品奪取の死闘の話をすると、
「うーん、川中島の戦いより壮絶だな……」
と機嫌を直していた。しかし、
「失礼します」
「おお十兵衛、どうした」
「いまさっき早馬がもどってきました。やはり間違いありません。赤備えの軍団が上洛してきています」
という報告を受けると、
「赤備え、ききき来てるの」
「はい」
「ししし信玄、動いたの。とうとう動いたの。来るの来るの。こっち来るの信玄。信玄動いた。信玄動いた。赤備えが来る。軍団で来る。信玄こっちに来る。オレ、やられる、やられる、ボコボコにやられる……」
と上様は急にあたふたそわそわしだした。そして、しまいには泣き叫んだり刀を振り回したり、それからヘンテコなダンスを気がふれたように踊ったりしだしたのである。
「上様、信玄ではございません。ガチガラモンです。ワオキツネガラモンの仲間のガチガラモンです。あいつらは赤いんです。赤くて、からだがギザギザしてるんです。だから遠目から見ると信玄の騎馬隊かとも思うんです。ですが確認取れました。ガチガラモンです。連中は手もこんなふうに〝うらめしや〟の格好ですから、まず鉄砲も撃てません。もちろん騎馬隊も組まれていません。全員徒歩です」
「信玄ガチギレした、信玄ワオガチギレした……信玄上洛してくる、赤備え来る、おれ、やられる……」
十兵衛さんがいくら励ましても皇帝はこのように取り乱したままだった。そうとう信玄なる人物が怖いようである。
「三千世様、デッキとテレビを取りに行きましょう」
とエロエロレギンスさんが助け舟を出してくれたので、ぼくは参戦せずにすんだが、藤吉郎様は皇帝のダンスにつきあわされることになっていた。お嬢さんがいうには三日三晩ぶっつづけで踊らされることもあるという。
「変なダンスだね」
「マイケル・ジャクソンの『スリラー』よ。精神状態が不安定になると、上様はあのダンスをかならず踊るのよ」
帰り際にふと窓をのぞくと、例のワオキツネガラモンが噂通り城のまわりを取り囲んでいた。槍みたいなものももっている。
「いるでしょ」
「いっぱいいるね」
「気持ちわるいでしょ」
「あっ、女の人、ちかづいて行ってるよ。槍でやられちゃうよ」
「大丈夫なの。ワオキツネガラモンは女子にはいっさい乱暴しないの。男子にたいしてはめちゃくちゃ凶暴だけど」
「けっこういいところもあるんだな」
「でもわたしは嫌。キィキィ鳴いてて気持ちわるいんだもん」
「キィキィ?」
「ええ。キィキィ鳴いてるでしょ?」
「いや、鳴いてはいないじゃん。普通にしゃべってるじゃん」
「また、ふざけて」
「ふざけてないよ。ほら、よくきいてごらん」
「うん……」
「あそこにいる二人、さっきからおニャン子がらみのトークで盛り上がってるじゃん」




