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その二十七
イートインの席で一時間ほど過ごしたのちにコンビニを出ると、そこはもう城内ということになっていた。
係の人に「ねっておいしいねるねるねーるね」のピーチ味を提示すると、
「こちらです」
と奥の間に案内される。
「あっちの四畳半が、わたしの部屋なの」
「すごいね」
「衣装とかでいっぱいだけど、わたし専用なのよ。いまのところ女子の忍者は一人だから」
「そんなに衣裳あるの」
「ええ。ぜんぶ変装用だけどね」
エロエロレギンスさんに城内をしばらく案内してもらっていると、
「三千世殿~」
藤吉郎様が長廊下を走ってきた。そしてぼくに抱きつくなり、
「よう来てくださった、よう来てくださった」
とお目目をうるうるさせている。
「このたびは、本当に、ホントーに、申し訳ないことをした。藤吉郎、このとおり、手をついてあやまる」
「藤吉郎様のせいじゃないですよ。それより早く薬飲ませてください。苦くてもなんでもかまいませんから」
「いや、それがですなぁ、三千世殿――じつはその……牛牛病っていうのはじゃな、ワシがでっちあげたものなんだよ」
「え?」
「つまり、うそなんじゃよ」
「ええ!」
「すまん! ほんとうに、あいすまん。でも、こうでもしなきゃ、唐辛子帝国には来てくれなかったでしょ? でしょでしょ?」
「まあ……」
「親方様、わたしの立場はどうなるんですか? わたし、三千世様に信用されなくなっちゃいますよ」
「三千世殿、この娘は、牛牛病はワシがでっちあげたことだとは、本当に知らなかったんだ」
「はあ」
「まず身内から騙さないと、こういうのは成功しないの。ワシの得意技なんだ! 凄いでしょ凄いでしょ」
「親方様、ひどい」
くノ一のお嬢さんは、文字通り大泣きしていた。そしてぼくに何度も謝ってくる。
「お嬢さん、信じるよ」
「三千世殿、悪いのはこのワシじゃ。しかしこの借りは、藤吉郎、かならず返す。ワシはそういうところ、きっちりしてるんだ。な?」
「うん、それはホントです」
「まあでも、牛にならなくて、よかったですよ」
二人はやっと笑った。
ところで、藤吉郎様がこんな手をつかってでもぼくをこちらに呼び寄せたかったのは、先に譲渡したVHSの視聴の仕方がわからないからなのだそうである。
ふつうなら、またぞろ隠者屋敷にだれかがおもむいて手順を習えば済む。しかし今回はどうやら、
「上様が、大写毛皇帝が、三千世殿からじきじきに教わりたいというものですから」
うんぬんという直命が下ったみたいなのだ。五十万石の大大名でも大殿にはいっさい逆らえないらしい。
「なるほど――その大写毛様という人が一番偉いんですね」
「超ワンマンなの。親方様もしょっちゅう振り回されてるのよ」
「シッ! 声が大きい。首はねられるぞ」
「キャオ」
二人の話をきいているかぎりだと、大写毛皇帝は相当気が短いようだ。ビデオデッキの操作方法の教え方がわるいと、ぼくも皇帝に斬られるかもしれない。足がガクガクになってしまった。唇が演歌歌手のようにわなわなになってしまった。




