26
その二十六
牛牛病は三十五歳以上の男だけに症状が出る。だからモモヨくんはゆうべ牛鍋を食べていてもまったく問題はない。これは不幸中の幸いであった。二人とも牛になっちゃうのは、あまりにも辛すぎるからである。
「三千世様、とうぜん三十五歳以上ですよね」
「まあ、そのあたりは読んでくださっている方にも、あやふやにしておきたかったんだけど……」
「三千世様、苦いの平気?」
「ええ、まあ」
「お肉食べてから二十四時間以内に苦い薬草を煎じて飲めば、牛にならない人もぼちぼちいるみたいなの」
「ぼちぼちか……」
「とにかく急ぎましょう」
エロエロレギンスさんは、ぼくの手を引いた。
「ここよ」
到着したところは、ミクロ系の中西さんがはたらいているあのセブンでもローソンでもファミマでもない謎の変なコンビニであった。とりあえず、お飲み物やお菓子でも補充するのだろうか。
くノ一のお嬢さんは店内に入るまえに、
「あっ、そうだ――三千世様、テレホンカード持ってます?」
と耳元にきいてきた。
「うん、もってるよ」
ぼくは四半世紀以上財布に君臨している酒井ゆきえのテレホンカードを取り出してエロエロレギンスさんにみせる。
「うーん――これだとダメかな……」
「どこかに電話かけるんですか?」
「ちがうの。テレホンカードで支払いするのよ。まずレジで商品をピッピッってやってもらうでしょ」
「うん」
「そうしたら、交通系の電子マネーを選択して、テレホンカードでピーってやって、支払いするの」
「ピーって、鳴らないでしょ、さすがに」
「鳴るわよ。わたしが最初見本みせるから」
コンビニで買うものは決まっていた。それはまるごとバナナと紙パックの牛乳と「ねっておいしいねるねるねーるね」というお菓子のピーチ味だった。
支払いをすませて、こちらにウインクしてきたエロエロレギンスさんにつづいて、ぼくもお嬢さんに渡してもらったテレカでピーっとやる。おかげさまで無事購入できた。
「ありがとうございます」
中西さんから先の商品を受け取る。あいかわらず中西さんはかわいかった。さすが各ランキングの常連さんである。
イートインの席でこれを食べる。食べ終えれば唐辛子帝国に行けるのである。
「そそそ、そうなんですか?」
「お菓子は食べちゃダメよ。これは通行手形だから」
まるごとバナナを残さずにきっちり食べないと時空管理局サイドは手続きを完了できない。だからぼくは朝飯を食べたばかりだったけれども、どうにか無理してこのスイーツを胃の中に押し込んだ。となりにすわっているエロエロレギンスさんは、
「唐辛子帝国は甘いものすくないから、これ食べるの、楽しみなの」
とまるごとバナナをぼくより早く食べ終えていた。まあくノ一のお嬢さんは、あれだけアップダウンのキツいコースをいつも走っているのだから、これくらいのスイーツを食べた程度では太ることもないだろう。
「おれ、太りやすいから、あとで長い距離歩かなくちゃ」
「牛にならなかったらね」
「牛か……」
唐辛子帝国は、いくさをしていたり、スイーツ系がすくなかったりと、不便な面もあるが、景気のほうはかなりいいらしい。
「よその国に辛いものを、たくさん輸出してるの」
「そうなんだ」
輸出しているもののなかで、とくにお国に利益をもたらしているのは、ラーメンなどに入れるいわゆる〝辛玉〟とのことである。そういえばあのこわもての蜂須賀さんも、ラーメンを食べながら、
「こっちの辛玉、ぜんぜんパンチが弱いな」
などと、ぶつぶついっていたかもしれない。




