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その二十四
屋敷の駐輪場に自転車を駐めたのちに蔵へボロ毛布を置きに行く。そして風呂に入る。
パジャマ用のジャージ一式は脱衣場の棚にもう用意されてあった。洗濯物を取り込んだついでに直接ここにモモヨくんが置いてくれたのだろう。風呂上がりにそのジャージの下だけをはいて台所で水を飲む。
晩飯までにはまだ時間があったので、キャプチャ室の様子を見に行くと、モモヨくんが首をかわいくかしげてモニターをみつめていた。
「ねえ、チーフ」
「ん?」
「むかし、こんな番組ありましたっけ?」
モモヨくんは探検モノの番組を観ていた。川口探検隊のやつだろう。
「これは一時期すごく人気があったんだよ。知らないんだ? モモヨくんは」
「知ってますけど、これは川口探検隊じゃないんですよ」
「川口探検隊っぽいけどな……」
「ちょっと待っててください――ほら! このナレーション」
深刻に現在の状況を説明しているナレーターはなるほどたしかに探検している連中を川口探検隊ではなく〝沼口〟探検隊と呼んでいた。沼口ハジメ隊長なる人物もあきらかに川口浩とは別人物だった。これはぼくも観たことがない。
「キャプチャしてると、ちょくちょく観たことも聞いたこともない番組に出くわすんです」
「おれも意味不明な歴史番組、観たことあるな。そのときは、ふざけてるのかなと思ったんだけど、たしかにあれは何かがおかしかった……」
「それにこの家テレビのアンテナ、屋根にないですよね」
「ひかり回線とかなんじゃないの?」
「でもテレビはブラウン管だし、地デジチューナーみたいなものも設置されてないし、それにほら、電源も入ってない」
「恩師が異国に旅立つとき、きっとコンセントから抜いていったんだよ」
「でも、テレビはちゃんと映りますよ」
モモヨくんがテレビのスイッチを入れると、画面には幸田シャーミンによく似たキャスターがあらわれた。臨時ニュースのようだ。ラスコールニコフという青年が高利貸しの老婆を殺害したうんぬんと鼻にかかった声で読み上げていた。
ぼくとモモヨくんがいまここでいくら考えてもどうにもならないような気がした。これ以上面倒な事柄を増やしたくもなかった。ぼくはテレビを消す。
「とりあえず晩御飯にしようよ」
「そうですね。藤吉郎様にもらったお肉で牛鍋つくろうと思ってるんです」
「じゃあお願いします。おれ後片付けやるからさ」
晩酌はいつものように米焼酎である。モモヨくんも米焼酎がすっかり気に入ったようである。飲みっぷりから察するに、わたくしチーフよりも気に入っている感じである。
「そういえば、チーフが修理屋さんにもう一回出ていったあと、三原さん、たずねてきたんです」
「なんか用があったのかな?」
「このあいだチーフが印刷した天堂愛ちゃん。あれを貸して欲しいって」
「あげちゃってもいいけどね。いくらでも印刷できるから」
「わたし、チーフの外付けストレージにあの静止画、保存してあるの知ってるでしょ。だから『持っていっていいですよ』って、貸してあげたの」
「三原さんも愛ちゃんに相当グッと来てるんだな……」
「チーフはロリ熟女系のコンテンツに相当グッと来てますよね」
「若いのは、もうぜんぜんグッと来ないんだよ」
「外付けに『ロリ熟女系』っていうフォルダがあるくらいですもんね」
「よくチェックしてるなぁ」
藤吉郎様からいただいた牛肉はたいへんおいしかった。モモヨくんの味付けも上手だった。ぼくは酒の肴がよかったので、いつもよりたしょう飲み過ぎてしまったけれど、後片付けができないほど酔いはしなかった。あまった牛鍋はタッパーに移して冷蔵庫に保存した。




