23
その二十三
蜂須賀さんは、
「親玉の首をはねて上様に献上するぞ!」
と息巻いていた。
とはいえ、その親玉の顔も名前も蜂須賀さんはわかっていない。ワオキツネガラモンとおなじ容姿だと思っている。しかも夕方までには国に帰らなければならない――つまり三原さんはまず捕まることはないのであった。
ぼくは一枚もらった写真をランニング用のバックパックに収めると、
「みかけたら連絡しますよ」
とてきとうなことをいって蜂須賀さんと店のまえでわかれた。
十中八九安全だとはいえ、ぼくは「たまたまコース」経由で三原さんの例のバグの事情を知ったわけだから、ややぽちゃロリ熟女さんにはいちおう連絡しておこうと思った。
メールを送ると、ややぽちゃロリ熟女さんはKの森総合公園でロボット犬の散歩をしていた。噴水まえのベンチで落ち合う約束をする。
「ロリロリさん、お忙しいところ、すみません」
「いいえ――誘ってきたんじゃないのね」
「誘いたい気持ちはありますよ」
「でも三千世くんは好きな子、五十人くらいいるもんね」
ぼくは「あはははは」と笑いながらベンチに腰を下ろす。ややぽちゃロリ熟女さんは時空を超えてあん摩をやっていても経済的には恵まれていないらしく、
「博士におこづかいもらわなかったら、実質やってけないわ」
とこぼしていた。ご亭主はもうずいぶんまえに他界されているようだ。
「その博士と再婚すれば? 金持ちなんでしょ、博士」
「博士、結婚してるし、それにひ孫さんもいるのよ」
博士なる人物はだいぶご高齢みたいである。ややぽちゃロリ熟女さんは――まあおそらく五十代半ばくらいだろう。
しかしきょうは博士のことをききに来たわけではない。ややぽちゃロリ熟女さんを誘いに来たわけでもない。ぼくは蜂須賀さんからきいたことをロリロリさんにざっと話した。藤吉郎様のことは省略する。ビデオテープの譲渡も割愛する。
「ふーん、唐辛子帝国……きいたことないわねぇ」
「ロリロリさんでも知らない国があるんですね」
「いっぱいあるわよ」
「三原さんにおしえたほうがいいのかな?」
「平気よ。放っといて」
「蜂須賀さんがいうには、ワオキツネガラモンたちが何に怒っているのかすら、ぜんぜんわからないんだって」
「バグだからかしらね」
「言葉もキイキイいってるだけみたいです」
「そんな国、行きたくないわね」
「ぼくもぜったい行きたくないですね。籠城もストレスたまるだろうな……」
「お金も出ていくばかりでしょうね。わたしもお金ないけど……」
きょうのややぽちゃロリ熟女さんはやけにお金のことばかりいうので、ぼくはおもいきって二万円ほどロリロリさんに渡してあげた。先日つぐみさんから借りたお金がまだけっこう残っているのである。
「こんなにたくさん、なんだか申し訳ないわ」
「いいですよ。困ったときはお互いさまですよ」
「三千世くんて、やさしいのね」
「下心のある女の人にはね」
ぼくはジャージにランニングシューズという身なりだったので、ついでにいつものジョギングをこなしてから屋敷にもどった。




