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その二十一
藤吉郎様は、ぼくたちが朝飯を食べているときにやってきた。まだ七時まえだった。
「すみません、朝早く。私事ですが、このあとも予定が詰まってましてね。申し訳ありません」
「かまいませんよ。いま朝御飯食べていたところなんです。藤吉郎様もよかったら食べませんか?」
「ありがとうございます。私も来るときにコンビニで朝飯買ってきたんです」
「おはようございます、藤吉郎様。おみそ汁あがりますか? お大根なんですけど」
「奥様、すみません。せっかくだから、いただこうかな」
モモヨくんは奥様と呼ばれたことに気を良くしているようだった。
藤吉郎様はセブンでもローソンでもファミマでもない謎の変なコンビニで例のハマグリのパック寿司を朝食用に買ってきていた。そのほかに、こちらは国元で用意したのだろう、発泡スチロールに入った高級牛肉もわれわれへの贈り物として持参してくれていた。
「わざわざ、すみません」
「これは、我が国の最高級の牛肉なんです。いちおう冷凍しておいたほうがいいかな」
「わかりました。ありがとうございます」
モモヨくんは頂き物を冷凍庫に収める。
「配下の者からきいたのですが、三千世様は毎日キャプチャをされてるんですか?」
「ええ。この屋敷の主人から頼まれましてね。もう一年くらいやりつづけているんです」
「キャプチャを終えたビデオテープはどうされてるんですか?」
「ダンボールに詰めて、物置にしまってあります」
藤吉郎様はハマグリの握り寿司をむしゃむしゃ食べると、大根のみそ汁をズズズズーッと飲んだ。そしてあぐらから正座になる。
「そのテープをこの藤吉郎に売っていただけませんか?」
「え」
「ダメですか?」
「いや、ダメってことはないと思うんですけど……でもわたしの一存では決められないので、いちおう所有者に確認してみますね」
「お願いします」
ぼくは恩師にメールでその旨を伝える。恩師はすぐ、
「いいよ。でもお金はもらうな。あげちゃいなさい」
と返信してきた。
「藤吉郎様、キャプチャを終えたVHSなら全部あげますよ」
「いえいえ、それでは申し訳ない。お金はしっかり払います」
「それだとぼくがここの主人に怒られちゃうんです。どうか、もらってください」
藤吉郎様はお目目をうるうるさせていた。
「かたじけない、三千世殿。この御恩は、藤吉郎、ぜったい忘れませんぞ」
藤吉郎様は、
「いやぁ、よかった」
と微笑みながらモモヨくんが出したたまご焼きをやはりむしゃむしゃと食べ、
「これも素晴らしいですなぁ、奥方様」
とお世辞をいって、またぞろみそ汁をズズズズーッと飲んだ。食欲旺盛な人だった。三人前のハマグリの握りをどんどん胃の中におさめていく。みそ汁のおかわりもお茶のおかわりも大きな音をさせて飲んでいた。
藤吉郎様が五十万石の大大名として活躍されている唐辛子帝国のお城は、エロエロレギンスさんもいっていたが、現在敵方にぐるりを包囲されている。
それでもその敵方は一般の市民にはいまのところ手を出さないので、国ぜんたいが混乱していたり死傷者が出たりしているわけではないようである。
しかし籠城戦をつづけている皇帝だか将軍だかはあまりにも毎日が退屈なので、藤吉郎様などにもしょっちゅう八つ当たりをしてくるらしいのだ。
「テレビとかユーチューブとか、ないんですか?」
「まったくないんです。ラジオすらないんですよ、唐辛子帝国は」
そんなわけで、藤吉郎様は皇帝の暇つぶしのためにVHSを欲しがっているのだった。ふむふむである。なるほどである。ちなみに皇帝はビデオデッキを一台もっているとのことだ。
「上様は骨董品集めが趣味なんです。それで何年かまえ、どこかの骨董屋がその機械を勧めてきましてね。値は張ったんですが、なにしろ金はうなるほどあるんで」
「ビデオデッキなんて、こっちじゃ、不燃ゴミとして捨てちゃうのにな……」
「上様はデッキでなにができるかもぜんぜんわかってなくて、押入れにしまったままなんです。でもこれ見たら、きっと喜ぶぞぉ。うしし、うしし」




