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その二
荷物の残りを取りにいったん帰ったモモヨくんはお昼まえにもどってきた。大きなリュックを前後に二つ、そして小さなお手手はやはり大きなボストンバッグをもっていた。
「じゃあさっそく、裸一貫がんばってお昼つくりますね」
モモヨくんはワンピースのボタンに手をかける。
「ちょちょちょ、ちょっと待った! 待った! モモヨくん」
モモヨくんは冗談ではなく、ほんとうに全裸になろうとしていた。とりあえずぼくは、
「恩師のいうことなんか、本気に取っちゃだめだよ。やってる感だしてるだけなんだから」
とどうにかしてモモヨくんの決意を変えさせようとする。しかしモモヨくんはこれまでの身なりでは、どうしても納得できないみたいである。で、こちらは〝パン〟との決別という意味もあるようだが、
「せめてパンティーだけは、はかないでいいという許可をください。チーフ」
とこちらに譲歩をもとめてきたのだった。
「うーむ……」
おそらくスカートなりズボンなりをはいていてくれれば目のやり場に困ることもないだろう。そしてコンプラ的にもセーフであろう。そんなわけで、わたくしチーフはノーパンでの生活にいちおう許可をあたえた。
「やったー。あれ――こういうとき、どうやってよろこぶんだったかな……」
「マンモスラッチーだよ、モモヨくん」
このあとモモヨくんは冷蔵庫をチェックしたのちにオムライスをつくってくれた。手際が良かった。
「どう?」
「おいしいです」
昼食後のぼくは、またぞろキャプチャ作業に取り掛かる。モモヨくんは「特撮百科事典」なる書物を熱心に読んでいた。
「あっ、猫よけには、お水を入れたペットボトルが有効みたいですよ、チーフ。事典に載ってます」
ぼくはもう十年以上まえにペットボトルは効果がないということをつぐみさんよりきいている。じっさい自分でもペットボトルによりかかって昼寝している猫を目撃したことがある。それでもあたまごなしに否定するのもチーフとしてどうなのだろうとちょっと思ったので、とりあえずモモヨくんにいわれるがままに空のペットボトルを探すことにした。
「ぜんぜんないですね」
「うん。二日まえ、ビン缶ペットボトルの回収日だったからね」
「出したばかりなんですね」
「また、たまってからで、いいんじゃないかな」
「ええ……」
ふたたびモモヨくんは百科事典をパラパラやりだす。真剣に読んでいる姿はかなりかわいい。小柄なので、事典が大きくみえる。
この隠者屋敷から歩いて十分くらいのところに大きな公園がある。ぼくは夕方になると毎日そこで五キロほどジョギングをしている。その時間帯にときどきあらわれるレギンスをはいた女の子も、まあモモヨくんよりは大きいけれども、けっこう小柄でかわいい。
ちかごろのぼくは、そのレギンスの女の子が、一番か二番目くらいに好きなのである。
恩師に指導うんぬんと頼まれている以上、モモヨくんにたいしてレギンスの子に抱いているような恋心を抱くわけにもいかない。妄想癖をかんがえると、今後が思いやられるのであった。ちなみにわたくし環三千世は、先の子以外にも三人か四人ほどの女子に激しく恋心を抱いているのである。
「みんな小柄なんですか?」
「そうだね」
「レギンスの人はわたしよりは、ぜんぜん大きいんでしょ?」
「うん。モモヨくんより十センチくらい大きいのかな」
「顔は? たぬき系? きつね系?」
「顔はね、いつもサングラスかけて黒いひらひらのマスクつけてるから、ほとんどみたことないんだよ」
「ぜんぜん見たことないんですか?」
「曇りの日に遠目からちょこっと見たことはあるけどね」
「ほかの人はどんな感じなんですか?」
「ちょっと待ってね。いまノート持ってくるから」
ぼくは最近「モテる男のモテモテノート術」というネット動画に感銘を受けて、いろいろノートに書き込んでいるのである。
「じゃあ、読むね」
「はい」
「えーとね、一番好きな子はさっきもいったレギンスの子ね。あっ、〝エロエロレギンスさん〟って、書いてあるな。まあその子。第二位が若いときの若尾文子。和服姿の若尾文子ね。第三位が天堂愛ちゃん。第四位が〈お食事処松葉〉の夕子ちゃん。で、五位が三十五、六のころの松尾嘉代。六位がウルトラセブンのアンヌ隊員。七位が太田裕美ちゃん。太田裕美ちゃんはまえは一位だったんだけどね。八位が公園で犬の散歩をしていた幼稚園の先生のようなエプロンをつけていたややぽちゃの童顔の熟女さん。ややぽちゃロリ熟女さんて命名してあるな……いきなり八位か……またあとで代わるかもしれない。で、九位がショートカットの芦川いづみ。それで十位がね……」




