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その十九
始発のコミュニティーバスに乗って屋敷にもどったぼくは、まずシャワーを浴び、それからきのうつくっておいたたまごサンドイッチを冷蔵庫から取り出す。
「コーヒーじゃなくて牛乳にするか」
その後またお昼ちかくまで寝る。料理屋の布団では、たしょううつらうつらした程度にしか睡眠は取れなかったのである。
目覚めると、寝るまえにセットしておいたVHSのキャプチャは終わっていた。そちらをすげ替えてからまたパンを食べる。おそらくモモヨくんのものだろう、インスタントのコーンスープもいただく。
「あとで、おなじやつ買ってきておこう」
キャプチャを完了したビデオテープがまたぞろ高く積み重なってきたので、ダンボールに詰める。ガムテープで梱包し、てきとうな場所に「済」とマジックで書いておく。屋敷の裏にある蔵には、こんなダンボールがたくさん積んである。
浴室を掃除したり、文庫本を読んだりしていると、いつのまにか夕方になっていた。そんなわけで、Kの森総合公園へおもむくことにする。
スタート地点まで歩いていき、軽くストレッチしたのちにゆっくり走り出す。一周一キロのフラットなコースを半周ほど走っていると、里山ゾーンからエロエロレギンスさんが円を描くように降りてきた。
「三千世様~」
「ああ」
エロエロレギンスさんはぼくのペースに合わせてスピードを落としてランニングしてくれた。キロ七分半だとくノ一のお嬢さんには物足りないだろうが、わたくし環三千世はこのスピードで走るのがいちばん楽しいのである。
「お国のほう、どうでした?」
「やっぱり、たいへんなことになってました」
走りながらエロエロレギンスさんのお話をきいてみると、この娘さんのお国はとんでもなく強固な一種の独裁国だった。で、その王様だか皇帝だかが住んでいる城だか宮廷だかはいま現在、まわりを敵方に包囲されてしまっているようなのである。
「親方様も、それでほうぼうを駆けずり回ってるんです」
「お嬢さんの直属の親方は、その王様だか皇帝だかのブレーンなんですか?」
「ええ、そうなんです。最初はお城のバイト清掃員だったんですけど、いまでは大出世して、五十万石の大大名なんです」
「すごい人なんだね」
そんなすごい親方様が、わたくし環三千世に会いたがっているという。
「会ってくれますか?」
「会うのは、ぜんぜんいいですよ。でもおれ、筋金入りののらくらだから、忙しくてもそちらさんの仕事は手伝えないよ」
「はい、それはわかってます。都合のわるい日などはありますか?」
「とくにないかな」
「明朝の都合はいかがですか?」
「うん。大丈夫ですよ」
エロエロレギンスさんは忍者の仲間にこのことを伝達するといって、芝生広場のスプリンクラーを作動させていた。お嬢さん自身は芝生広場を失敗ぎみの側転等も交えつつただ横切っただけだ。
「すごいなぁ。忍術ですか」
「まだまだ半人前だけど、いちおうくノ一だもん、わたし」
フラットなコースをそれからもう三周ほど走ると、
「じゃあ、明朝お願いしますね。さようなら~」
とエロエロレギンスさんは奥の森みたいなほうへ去っていった。すれ違った用務員さんに、
「トレランの練習、ちょっとやらせてくださーい」
とひと声かけていた。用務員さんは、
「あんまり奥には行かんでくださいよ」
と走り去るお嬢さんにいっていた。ほんとうは例の博士捜索をまたぞろおこないに行ったのだ。
「さすがにあそこには、いないんじゃないかな。もっとちゃんとした研究室みたいなところにいるらしいよ」
といちおうぼくはくノ一のお嬢さんに助言したのだが、親方様サイドは公園の未開拓のあたりに博士が潜んでいると確信しているらしい。いくつか証拠もつかんでいるとのことだった。
「ロボット犬を散歩させてるから、それで公園の奥にいると思ってるのかもしれないな……」




