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      その十七


 あん摩師さんは、


「鶴の間を取っておきますから」


 といっていた。鶴の間はたしか続きの間で、布団を敷いて一泊することもできたはずである。


「まあ、あん摩マッサージやってもらうわけだから、とうぜんか……」


 料理屋〈むら野〉は建て増しや改築などをくり返した結果、迷路のように入り組んだ店構えになっている。


「いらっしゃいましィ」


「すいません、鶴の間を取ってあるんですけど」


 女将に、


「こちらです」


 と案内されてその鶴の間に入る。続きの間の奥の六畳にはもう布団が敷いてあった。胸の高鳴りは最高潮である。しかしあん摩師さんはまだこちらにはあがっていなかった。


「約束した時間より三十分も早いからな……」


 とりあえずトイレに行く。トイレから鶴の間にもどるのに思いのほか手間取る。通りかかった店の子にきいて、どうにか部屋にたどりつく。


 この迷っているあいだにあん摩さんは店に来ていた。正座して待っていた。


「キャオ」


 あん摩さんは幼稚園の先生みたいなエプロンをつけていた。童顔だった。三つ編みじゃないやつのおさげだった。〝キャオ〟を十回くらい発してもよいほどの衝撃であった。まちがいなく、かのややぽちゃ熟女さんである。


 ぼくは先ほどの電話ではお茶を濁しておいたのだけれど、座布団にすわるなり、迷うことなく〝たまたまコース〟のそれもプレミアム版のほうを選んだ。本物のややぽちゃロリ熟女さんだったからである。


「お値段は先ほど申し上げた金額になりますけど、よろしいですか?」


「ポイントが使えるって、きいたんですけど」


 ぼくは持参したノートのシールを貼り付けてあるページをみせる。


「あらっ、お客さまはゴールドの方なんですね。失礼いたしました。たまたまコースもお食事の料金もこちらのポイントで大丈夫です」


 いくつかの肴と酒をとりあえず注文したぼくは、それでも、


「ゴールドの方は、たまたまのほうも無制限なのよ」


 とややぽちゃロリ熟女さんからきくと、いても立ってもいられなくなってしまった。そんなわけでお猪口で酒を一口飲むと、すぐその〝たまたま〟をやってくれるようお願いする。


「わかりました。せっかちなのね」


 ややぽちゃロリ熟女さんはこちらを覗き込むように見た。そして耳元に息を吹きかけてくる。しかしこの行為は、こちらの〝たまたま〟を焦らすためだとか、もう一方の例のあれをもっともっとビンビンにさせるためだとか、そういうことではなかった。外部に声をもらさないためだったのである。ややぽちゃロリ熟女さんは、


「他の人にあんまりいっちゃダメよ」


 と念を押すと、あん摩の顧客から聞いて〝たまたま〟知ったという情報を、甘い声で耳打ちしてくれた。


「うーむ……しかし、とんでもない話ですね」


「でもホントよ」


「恩師から似たような話をきいたことはありますけど」


 ややぽちゃロリ熟女さんは、たまたまのやつのもう一方のあれがビンビンになっているのに気づいていたので、ぼくはゴールドマークを主張しつつお目目の表情だけでこちらのほうもお願いしておいたのだが、まあそれはともかくとして、ややぽちゃロリ熟女さんが顧客より聞いて〝たまたま知った〟情報というのは、つぎのようなことであった。


 三原さんは「バニラシェイク共和国」というところで映画監督をされている。とくに怪獣の特撮作品を得意としていた。


 いちばんの当たり作は「ワオキツネガラモン」である。興行収入も圧倒的だった。ワオキツネガラモンさまさまである。しかしそのワオキツネガラモンなるものが、ダークエネルギー関連の磁場のあれのバグの関係で、フィクションの世界の生物なのにマテリアライズされて、他時空の国に現実の生き物として存在してしまったのだ。


 というわけで、いきなりある日ワオキツネガラモンなんかが現れて、お店のまえでたむろとかされちゃっている、その他時空の国の方々は、おそらくたいへん困っているのであった。


「ワオキツネガラモンって、どんな怪獣なんですか?」


「いま、みせてあげる」


 ややぽちゃロリ熟女さんは、スマホで画像を出してくれた。


「ああ――ウルトラQとかに出てくるあのガラモンに似てますね。色は白っぽいから、ちょっとちがうけど」


「ワオキツネザルとガラモンの間の子って感じでしょ」


「でもこれ、サイズ的にはガラモンっていうより、ピグモンだけどな」


 ややぽちゃロリ熟女さん経由でこのバグのことを知り責任を感じた監督の三原さんは、ワオキツネガラモンよりも強い特撮ヒーロー作品を撮り、またぞろ先のバグのあれで具現化して、ワオキツネガラモンを捕獲するつもりらしいのだ。


 しかし映画のなかでのワオキツネガラモンはとにかくとてつもなく強いという設定だったので、そんじょそこらの特撮ヒーローでは、とてもじゃないけれども太刀打ちできない。だから三原さんはわざわざわれわれの国まで来ていたのである。特撮ヒーロー専門のコスプレバーに通っていたのである。ワオキツネガラモンに対抗できる特撮ヒーローを研究していたのである。


「そのわりには知識ないけどな……」


 それでもいまのところ、ワオキツネガラモンの被害に遭っているその他時空の国も特定できていないし、バニラシェイク共和国からのお咎めもない。


 よって加害者の三原さんも、わりとのんびり構えているとのことであった。


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