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その十六
「あっ! チーフさん、すごいポイントですね」
ノートでまたぞろ勉強していた三原氏は例のシールにおどろいていた。そして、
「このポイントをつかえば、あん摩受けられますよ」
とそのマッサージのオプションなども詳しくおしえてくれる。
「そそそ、そんなこともしてもらえるんですか!」
「ええ」
驚愕すべきオプションであった。ここには記せないほどのオプションであった。恩師より頂戴したポイントは、ただのはったりではなかったのである。
ぼくは三原さんを経由して、そのあん摩マッサージの予約を取ってもらう。あん摩さんは自宅にも来てくれるみたいだったが、オプションを考慮すると屋敷をつかうのはさすがに恩師に申し訳ないので、外で待ち合わせることにした。待ち合わせ場所は、のちほどあん摩師さんのほうから連絡してくるとのことだ。
今晩からさっそくコスプレバーに通うらしい三原さんは、
「今後とも、よろしくお願いいたします」
と帰っていった。凄まじい意気込みである。
昼食をまだ取っていなかったぼくは、モモヨくんが初日にもってきてくれた食パンを軽く焼いて食べる。
モモヨくんは現在パン断ちをしているので、やたらに長い食パンはまだまるまる残っていた。晩飯はこれでサンドイッチをつくってもいいだろう。ホットミルクを飲みながらサンドイッチ用の卵を茹でる。そして午後のキャプチャ作業を開始する。
キャプチャの進み具合を横目で確認しつつ愛ちゃんのドラマをまたぞろ観ていると、あん摩師さんから電話がかかってきた。
「もしもし」
あん摩師さんはていねいなあいさつのあと、待ち合わせ場所を指定してくる。奈々美ステーションとのことだった。
「奈々美ステーションって、どこなんですかね?」
「お客様のお住まいからいちばん近いステーションですよ」
「ん? もより駅は、K駅なんですけど……」
「あっ、そうでしたそうでした、すみません。料理屋〈むら野〉と呼ばれてるんでしたっけねぇ」
「はあ」
「〈むら野〉はご存知ですか?」
「ええ、知ってます」
「では、午後の七時ということで」
「わかりました」
ぼくは電話を切った。料理屋〈むら野〉で待ち合わせということは、晩御飯はそこで食べることになるだろう。サンドイッチは翌朝に持ち越しということにした。
まえにも軽くいったが、料理屋〈むら野〉は行きつけの店なのである。常連なのである。
親父が商売の接待でよくつかっていて昔からの上客なので、ぼくも常連なのである。つまり親父に払いはツケておけるのだ。なにもいわなくても店の女将がそうしてくれるのである。
オプションのことをかんがえると、料理屋でのお食事はあん摩師さんのぶんもこっちで払ったほうがいいだろう。きっとそれが暗黙の了解なのだ。大人の約束なのだ。だから料理屋で待ち合わせなのだ。いわゆる〝たまたま〟をあれしてたぶんこうもしていただけるのだから、こちらで払うのが当然なのだ、マンモスムッシュの立ち居振る舞いなのだ。
「なんか胸の高鳴りがすごくなってきた……」
夕方いつものように公園に行ってジョギングをする。今回もだれにも会わなかった。いまはそういう流れなのかもしれない。公園とはそういうものである。
屋敷にもどって入浴したのちに稼働しているパソコンの電源をすべて切る。きょうのキャプチャはこれで終了である。
あすの朝食用にサンドイッチをつくっておく。ミミも切らない大雑把なものだが、自分で食べるのだから、これでかまわない。たまごサンドイッチは好物なのである。
六時すぎ、戸締まりののち、胸をお手手で撫で撫でしてぼちぼち屋敷を出る。




