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その十二
翌朝、早々に旅館をチェックアウトする。くノ一のお嬢さんとは駅で落ち合うことになっている。
駅までは歩く。健康のためである。BMI19台維持のためである。約束している時間よりもだいぶ早く駅に到着する。おそらくお嬢さんはまだ来ていないだろう。
駅内に入ってあたりをきょろきょろしていると、だれかがうしろから肩をトントンと叩いてきた。お嬢さんだと思って振り返ると、水玉のレギンスをはいたエロエロレギンスさんがそこにいた。
「キャオ!」
「びっくりした?」
エロエロレギンスさんはサングラスと黒いひらひらのマスクを取ってニコリと微笑んだ。エロエロレギンスさんはくノ一のお嬢さんだった。
「これはエロエロレギンスさんの変装とか、そういうことなんですか?」
「ちがうわよ」
「じゃあ、お嬢さんがそもそも最初からエロエロレギンスさんなんですね。読んでくださっている方のためにも、そこのところ、どうかはっきりしてください」
「誓ってわたしよ。同一人物」
エロエロレギンスさんはこの一年ほど親方様に命じられてKの森総合公園の奥のほうのまだ開拓していない森みたいなあたりを調べている。で、そんなところから、どうやら高桐恩師率いる隠者軍団が何かを企んでいるなどと早合点したみたいなのだ。
旅館の従業員に変装して何度もちょくちょくぼくの部屋に入っていたというエロエロレギンスさんは、例の「モテモテノート」もしっかりチェックしていた。
ちなみにエロエロレギンスさんは最新の「好きな異性ランキング」において二位にランクインしている。
「ねえ『3A』って、だれなの?」
「まあ、いいじゃないですか」
公園の奥のほうのまだ開拓していない森みたいなあたりをくまなく捜索しても、いまだ捜している人物には会えないという。
「あそこに仙人でも潜伏してるの?」
「仙人っていう感じでもないらしいの。いちおう〝博士〟って、親方様も呼んでるくらいだから」
モモヨくんが探している例の「樹樹どくだみ」のこともダメ元できいてみると、
「知ってるわよ。あそこには生えてないけど」
とエロエロレギンスさんは思いのほかどくだみ関係に精通していた。しかしくノ一をされていらっしゃるお嬢さんでも、その樹樹どくだみから煮出した汁が猫よけになるなどという話はきいたことがないようである。
最新の好きな異性ランキングでは若干順位を落としている〈お食事処松葉〉の夕子ちゃんは裏で厨房の手伝いをやっているときもあるけれど基本的には出前が専門である。
地元の駅に到着したのちに、
「そこでお昼を食べましょうよ」
というエロエロレギンスさんとひさしぶりにその〈お食事処松葉〉へ行ってみる。すると夕子ちゃんはヘルメットを脇にかかえながら、
「ただいまぁ」
と店のなかにちょうど入ってきた。幸運である。マンモスラッチーである。
「わたしは、わたしのほうがかわいいと思うな」
きつねうどんを注文していたエロエロレギンスさんは小声でこういった。ぼくはたぬきそばをすすりながら大げさに二、三度うなずいて同意する。
夕子ちゃんは、すぐまた出前に出なければならないらしく、運ぶものを待っているあいだ、店内でもうヘルメットをかぶって最短で出発できるよう準備を整えていた。それをちらちら見て、
「あの子、ヘルメットかぶったほうが、かわいいわね」
とふたたびくノ一のお嬢さんは小声でいってくる。ぼくもまたぞろ二、三度うなずいた。たしかに髪をおろしているときよりも、ヘルメットをかぶってシールドをあげている姿のほうが、なんというかこう、胸につきささってくるものがあるように思われる。




