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ゆらゆら  作者: SHIN
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4/5

関西大会予選開始

迎えた関西大会予選会

体育館の重い扉を開けた瞬間、押し寄せてきたのは、何百人もの拳士たちが放つ圧倒的な熱気と、防具の擦れる匂い、そして床を激しく叩く足音だった。


拳法の大会のアップ場といえば、武道専門の地下室などではない。


本戦コートのすぐ横や裏手に広がる、体育館の板の間フロアだ。仕切りもない大きな空間の中で、全員が声を張り上げ、防具の音が反響する独特の空間。そこに、関西一円から集まった各大学の拳士がひしめき合い、所狭しと激しく汗を流していた。


バチィィン! ドカァッ! と、防具の胴を激しく打ち抜く不穏な衝撃音が、高い天井に反響して鼓膜を震わせている。


「1年、もたもたするな。こっちや」


先輩たちの背中を追うようにして、大南大1年生3人は、一般の観客席を通り抜け、フロアの壁際の一角へと向かった。

その空間の中心にどっしりと陣取っていたのは、淀川大学、宗和大学といった名門校たちだ。彼らは圧倒的な人数と、伝統校ならではの堂々とした風格でアップ場を支配している。


それに対して、我が大南大学は総勢九名の小さな集団。大学としての規模も小さく、全体から見ればそこまで目立つ存在ではない。

だが、他校の拳士たちの視線が、時折ピリッとこちらに向くのが分かった。

関西の拳法界でその名を知られない者はいない、少数精鋭ゆえの不気味なほどの凄み。

開戦を控えたアップ場でも、大南の一角だけはどこか違う殺気が漂っていた。


「よう、黒瀬」

不意に声をかけられ、蓮二が顔を上げると、そこにとある一団が歩み寄ってきていた。

先月の合同練習会で一度顔を合わせ、互いの実力を認識し合っていた、各大学の1回生主要メンバーたちだった。


淀川大学の鳴海晴臣と、宗和大学の堂本虎徹、柊木玲央。


そして淀川大学の久我山澪、宗和大学の神崎灯里、名神大学の椎名梓、扇大学の御堂琴音といった、各校の未来を担う女子の主力たちまでが、蓮二のいる大南大学のスペースへとわざわざ集結してきたのだ。


周囲の他校の上級生たちが「おい、何だあの集まりは……」「各校の大物ルーキーたちが、みんな大南のあの1年のところに集まってるぞ」と、一瞬ざわつくのが分かった。

「やっぱり大南のジャージ、お前によく似合ってるな」

鳴海が、少し緊張の混じった、しかし親しみのこもった苦笑いを浮かべて言った。


「合同練習会のあと、うちの先輩らもお前のこと警戒してたぞ。『大南にヤバい1年が入った』ってな」

堂本、柊木も頷き、「そっちこそ、名門のレギュラー争いは大変そうやなぁ」という蓮二の言葉に、女子メンバーも苦笑しながら肩をすくめる。


「何百人もエントリーして上がれるのは本線に上がれるの16人だけだからね。予選からサバイバルよ。」

それぞれの大学の看板を背負う彼らの目には、絶対に本戦へ上がるという強い闘志が宿っていた。


「絶対予選突破して、本戦のトーナメントで戦おうぜ」


蓮二はその言葉に、ふっと胸が熱くなるのを感じた。大学は違えど、これから4年間、この関西の舞台で激しく競い合い、共に時代を作っていく最高の同期であり、生涯のライバルたち。


「うん。約束やな。お互い、絶対に勝ち上がろう」


蓮二も自分の拳を突き出し、彼ら一人ひとりの拳とコツン、コツンと力強く合わせ合って、予選突破を誓い合った。


「他校の人数なんて気にするな。見るべきは自分の拳や」

同期たちが自陣に戻っていくのと入れ違いに、東堂が腕を組んだまま、蓮二たちの前に立った。


「お前らがこの1ヶ月、うちの道場でどれだけシバかれてきたか、俺らが一番よく知っとる。練習通りやれば、予選の連中相手に遅れをとるわけがない。速攻で片付けてこい」

「……はい!」

蓮二は短く、しかしこれまで以上の決意を込めて返事をした。


やがて、体育館のスピーカーから、割れた電子音が響いた。

『これより、予選を開始します。各選手は速やかに指定のコートへ集合してください』

大会は、まず女子の部から静かに、しかし激しく幕を開けた。蓮二は自分の出番を待つ間、体育館のコートサイドから同期たちの試合を見学していた。


淀川大の久我山、宗和大の神崎、名神大の椎名、扇大の御堂といった女子の主要メンバーたちが次々とコートへ上がる。それぞれが名門の意地をかけ、目の前の相手を圧倒して勝利をもぎとるべく戦っている。


会場にコールが響いた。

『これより、男子の部を開始します!』

独特の緊張感が走る。

先に淀川大の鳴海、宗和大学の堂本、柊木といったライバルたちが順当に勝ち上がる中、ついに蓮二の名前が呼ばれた。


ずっしりとした面を被り、紐をきつく締め上げる。視界が格子の向こうへと切り替わると同時に、周囲の雑音がすっと遠のいた。


毎日道場で先輩たちの狂暴な打撃を浴び続けてきた今、この防具の重みは不思議と、自分の身体を守る強固な鎧のように感じられた。

対峙する初戦の相手は、他大学の2回生。

「構え!」

「始め!!」

合図と同時に相手が猛然と仕掛けてくる。しかし、毎日道場で鷹野や神谷の異次元の強さを浴び続けてきた蓮二の『眼』からすれば、予選レベルの攻撃はあまりにも大振りで、スローモーションに等しかった。

相手が放った右の上段突きを、ミリ単位の体捌きで、首をわずかに傾けて紙一重で見切る。

シュッ、と虚しく空を切る拳。

相手が「なっ……!?」と目を見開いたコンマ数秒の刹那、蓮二はかわした反動をそのまま腰の回転に乗せ、右直突きを相手の無防備な胴へと突き刺した。

バチィィン!!!

体育館の天井に、鼓膜を突き破るような強烈な快音が炸裂する。

「胴あり!」

どよめく周囲のコート。

蓮二の勢いはそこからさらに加速した。

相手に一切の反撃の隙すら、触れることすら許さない完全なワンサイドゲーム。

続く2本目も流れるような連撃であっさりと奪い取り、試合開始からわずか数十秒で勝負を決めてみせた。

息一つ乱さず面を外した蓮二は、そのまま次の試合も「軽く」一蹴。学年の壁を難なくぶち抜き、完璧な内容でDブロック予選決勝へと駒を進めた。

そして、少数精鋭の我が大南大学は、出場した先輩方も全員が格の違いを見せつけて、当然のように全員が駒を進めていた。

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