186.ゴートさんは艦橋主任
「ルビーはスターキッドAIとリンクできるミュータント、アシュラは地球防衛基地初代メインコンピューターAIの生き残り、ピエロはお兄ちゃんと初めて宇宙へ出た時に出会った最初の敵、そして昴くんとうちの五人でキッドに乗ってアケルナルまで行くの、なんでBちゃんに乗らなくっちゃいけないのよ」
最初からアイリーンが愚痴っている。
地球防衛基地の地下にあるイノマン研究所でのお茶会はまだ続いていた。
「そうだな例え話をしよう、もしお前がプールで泳ぐとすれば体力の心配だけすればいい、じゃあ太平洋を泳いで横断するとなった場合も同じことだけ心配すればいいのかな」
イノマンが昴くんをチラチラ見ながら話し出す。
「何を言ってるのかさっぱり分からないわ、うちにも分かるように具体的に説明してよ」
アイリーンは説得に応じる気持ちがさらさらない。
「九論さんはアケルナルまでスターキッドで行くには危険が沢山あるんだと言いたいんじゃないかなあ、具体的にどんな危険があるのかわからないんじゃなくて様々な危険が一杯あるって」
昴くんはイノマンが助けを求めていたことに薄々気付いていたので話を繋ぐ。
「うちはアルファ星まで2回も往復した実績があるじゃない問題なんかないんじゃなくて」
(何よ少し遠くなったくらいで大騒ぎして)
「今回の件は石橋艦長にとって大きなお仕事のチャンスだと思いますのアイリーンさんはそれを与えないのですね」
アシュラが穿った見方で攻めてきた。
そしてアイリーンは少し怯む。
「そういえばあの戦艦に誰が乗っているんですか、僕たちの知り合いだけでも教えてもらえませんか」
昴くんはあまり姑息な手段は日頃から使わないようにしていたのだけど今回は仕方がないと思う。
「そうだな石橋艦長と……」
「最初に会った時に挨拶をしたくらいかしら、まあ何かしら変な具合に変装していたのには驚かされたしBちゃんをくれるって言ったのは艦長だったわね」
「艦長自ら僕たちのアテンダントをしていたんだったね面白くて優しい人だったよね」
何時ものように昴くんがフォローに入る。
「あと山羊座ゼータ星人のゴート補佐官が最近になって艦橋主任に抜擢されているな、何でもアイリーンの戦艦なら是が非でも乗らないと面目が立たないとか言っていたらしいぞ知り合いだったのか」
そこまで聞いたアイリーンが身震いして昴くんに再びしがみつく。
「わあ、何て事なのかしらこれはいわゆる陰謀だわうちは聞かなかったことにしたいのだけど……ダメ、よね」
(ゴートさんが来た……もういいわ、うちの人生は終わったのよ、許してさえくれない貴方よね)
アイリーンは脱力した。
「陰謀? だとは思わないけどさそのゴートさんって以前ここに来た時に入場検査をしてくれた人だよね今回は見なかったけどさ、そういえば愛鈴の教育係をしていたみたいなことを口走ってたね、もし意地悪ばあさんみたいな人なら会わないようにすればいいんじゃないかなあ」
「それができたらどんなに楽かも知れないけど、それはやってはいけないことなのよ」
(如何にして逃げ上手になるかよね、そうね変装って手があったわよね)
アイリーンの表情がほくそ笑んでいく。
(口ではあんなことを言ってたけど楽しそうじゃない心配しなくても大丈夫みたいだな)
「観念したみたいだな」
イノマンも安堵の吐息を漏らす。
「わかったわ、ゴートさんがBちゃんに乗っていてうちが逃げ回っているってのを知った時のことを考えると……いえ、想像したくもないわ、逃げずに対峙するしかないのよね、それでBちゃんには全部で何人くらい乗ってるのよ」
「全員で300人程だな」
「そこにうち達五人が入るわけね」
(対峙するにしても直ぐに会わなくてはいけない理由なんかないわよね、まずは下級兵舎の空き部屋を見付けて身を潜めておくってのもいい手かも知れないわね)
「やっぱり九論さんは一緒に来ないんだよね」
「今まで通り私はここに残るさ、今やっている研究も中断したくないしな」
(いつもそう言いながら最後の方では一緒にいるんだけどね)
「アシュラは連れていって良いって言ったわよね助手として必要でなかったのかしら」
「140光年の旅などはそうそう簡単に行けないからな、これも立派な研究だと信じているのだよ」
イノマンは腕組みして頷いている。
(ははぁ~ん何か新しい実験をしようって顔付きね)
アイリーンは納得した。
「ああそれからB99にお前が乗せてもらうのではないからな、お前が持ち主なのだから最高責任者なのだよ、そこのところを考え違いしないようにだな」
「愛鈴が個人的に皆を雇い入れてるということだよね」
昴くんが直球的に聞く。
「うちはそんなお金持ちじゃないからね給料なんて払えないわ、そういうことは全部含めて艦長の石橋さんに一任してるんだからね……まだあの石橋さんが艦長よね、まさかうちのせいで交代させられたりなんかしてないでしょうね」
「悪いことをしている自覚があるのなら正したらどうだ、精神衛生上ストレスが掛かってその見事な銀髪が白髪になっても知らないぞ」
イノマンの容赦のない言葉にアイリーンは思わず頭を押さえた。
「九論さんあまり愛鈴を苛めないで下さいよ後で八つ当たりを受けるのは僕なんですからね」
「そんなことを言うのね」
頭を押さえていた手で昴くんを突き放す。
「まあ冗談はそのくらいにして」
イノマンが冷ややかな眼差しで見ている。
(九論さんの冗談ってどこからどこまでなのかが分からないのが怖いや)
「あとアケルナルまで行くのに時間がどのくらい掛かるかってことですよね」
自由を得た昴くんがテーブル上のクッキーを頬張りジュースを飲む。
「B99が最高速度で航行すれば単純計算で300年だな」
「ゲームを沢山持っていかないと暇になるわよね」
「違うよ愛鈴、僕たちは多分大丈夫だろうけど他の人たちは寿命で死んでしまうよ、だからB99に人数分のコールドスリープカプセルを積み込んで交代で航行しないといけないんじゃないかなあ」
「その辺の打ち合わせを早目にした方がいいだろう、何せアイリーンがそんなに待ってはくれないだろうからな」
イノマンの言う通りだった。
「そうよ石橋艦長はプロなんだからそんなものやあんなものうち達が想像もしてないようなことまで全て手配済みよ、ね」
「愛鈴の言うことも分かるけどさ、ちゃんと挨拶と打ち合わせはしようね」
「嫌よ石橋艦長のところにはゴートさんが待ち構えてる筈よねだからうちは行かない、あっ、いいこと考えた昴くんとアシュラで行けば良いんじゃなくてアシュラはうちのクローンなんだし当然身代わりってのはアリよね」
(随分と自分勝手な言い草だよ取り敢えず向こうに着いてから艦長に相談しよう)
昴くんはイノマンの意見に従いこのままB99に行った方が良いだろうと思う。
結果としてそういう事になり当然のことながら育成中のクローン係として七男ダイムと三女セントが付いてくることになった。
「スターキッドより戦艦B99管制センター応答願いたし」
アイリーンが面倒臭いのは嫌だなって顔をしている。
「こちらB99管制どうぞ」
「間もなく着艦、打ち合わせ通り艦橋近くのハッチにドッキングするビーコン誘導願いたし」
(Bちゃんからビーコンね、そういえば昔ピッカリBちゃんってアニメってあったかしら)
「こちらB99管制、誘導ビーコン発信完了」
「スターキッド了解」
「通信終わり」
「一寸待って」
「通信代わりました。入港後の事について石橋艦長と直接お話ししたいのですがお願いできますか」
昴くんは本来なら真っ直ぐ艦橋へ伺い艦長や船員の方々に挨拶をしなくてはいけないことは十分承知している。
だけど今回は育成中のクローンを同行させているので先に個室へ入りたいとお願いした。
そして快く受け入れてくれたけど1部屋しか与えてくれてない。
でもそこはアイリーンと昴くんが一番最初に宿泊したツインスリーベッドルームジャングル風呂付きの豪華な客室になっている。
未だアイリーンが不調を引きずっていたので部屋割りは昴くんがした。
アイリーン、アシュラ、ルビーで1部屋、ベッドが2つしかないので一人はソファーベッドで寝るようにする。
昴くん、ピエロで1部屋としダイムとセントで1部屋取り育成中クローンの様子を見ることにした。
いつもならアイリーンが陣頭指揮を取って部屋割りをしているだろうし当然の様に昴くんと1つのベッドで寝ると言い張っていたに違いない。
もう1つのベッドで小柄なダイムとルビーが寝ればソファーベッドは必要ないし育成中のクローン培養槽を押入れにでも入れれば来客用のベッドルームが確保できて理想的よと言った筈。
まあ、結婚前の男女が1つのベッドで就寝するのは如何なものかという倫理上の問題が発生するのだけどアイリーンは気にも止めないだろう。
だから昴くんは荷物の片付けをしている間、彼女のことが気になっていた。
「愛鈴大丈夫だよゴートさんが別れ際に『まだあの時の教育は終わってないよ、続きはしっかりやるからね』と言ったのって半分は冗談だと思うしさ、あの時きみが『こんにちわお久しぶりです急いでいますのでさようなら』なんて握手だけして逃げ出すように立ち去ろうとしたのがいけなかったんじゃないかと思うよ」
二人はスターキッドから降りて検疫所を出た所でゴートさんの出迎えを受けていたのに挨拶だけして立ち去っている。
昴くんはあまり親しくなかったのでそれで良いとしてもアイリーンはそうはいかなかったのだろう。
「昴くんは知らないじゃない、ゴートさんはそんなに甘い人じゃないのよあの横睨みの瞳で見詰められていると逃げられないんだからね、トイレだっていつもギリギリセーフだったんだからね」




