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236.アンバ隊長は演習中

 今日の合同演習はレッド隊長率いる天王星警備隊が冥王星守備隊の防衛線を一定時間内に突破できれば勝ちとなる模擬戦を2回と的当て競技を1回行いその結果を評価して勝敗を決める。

 その前にここはカイパーベルトの中だから毎日訓練前には広範囲グラビデ弾を均等になるように撃って扇形に整地を行う。

 訓練中に不測の事故が起きないよう安全意識を高めるのも訓練のひとつ。

 アンバ隊長とレッド隊長は訓練生の自主性も審査するのであまり口出しはしない。

 ただ今日の訓練では2つの艦隊が取る陣形と防御バリアの種類を事前に隊長同士が話し合って決めていた。

 訓練開始と同時に鶴翼陣を取る天王星警備隊は左右の鶴翼を大きく広げながら横陣を敷いて待ち構えている冥王星守備隊にペイント弾を撃ちながら突進していく。

 冥王星守備隊は飛んでくるペイント弾に対応するため自身もペイント弾を撃ち相殺させる。

 それぞれの艦隊が持っているペイント弾の総数は決まっているけどそれを各艦にどう振り分けるかは自由、戦術手腕を見極める材料になっていた。

 警備隊と守備隊の距離は0.02光秒6000Km、その宙域が弾かれたペイント弾によって黄色に染まっていく。

 防手の冥王星守備隊は左右から迫ってくる警備隊に対応するため撃ち手を2つに分けて応戦する。

 そのとき守備隊側の中央部から真っすぐ伸びる宙域は火線がなくなった安全地帯となっている……はず。

 そこを最後まで動かなかった鶴翼陣中央に位置した高速巡洋艦がフル加速で突っ込み横陣中奥部を突破するというのが天王星警備隊が取った作戦。

 予想通り中央部に攻撃の火線がなくなったのを見極めた警備隊巡洋艦がフル加速で突っ込み防衛線を突破することに成功した。

 1回目の模擬戦が終わると感想戦を行い2回戦を開始する。

 守備隊の研修生が感想戦時に相手が鶴翼陣ならこちらは雁行陣で戦いたいと言い出したので2回戦はそのようにした。

 そうなると有効射程に入るのがほぼ一緒になって目の前の敵と戦うタイマン戦に入る。

 ペイント弾は丸ごと一発被弾すれば負けとなるので相殺し損なうと同士討ちになってしまいあっという間に決着が着く。

 その時の感想戦ではただ単に撃ちまくるのではなく何かしらもう一手が必要なのではないかとなった。

 3回戦は的当て競技になっていて点数制。

 射手が6000Km離れた距離にある直径10mの的を超超望遠鏡で狙い撃つ。

 ここまで警備隊が1勝1分となっているので守備隊が勝たなければ負けが決定してしまう。

 どちらの射手も優秀で勝負はもはや誰がミスを犯すのかに焦点がズレ始めていた。

 だから自身の名誉を掛けて外す様なことはしない。

 最終になる警備隊5番艦の射手が撃ったペイント弾が的を外す。

 本来であればミスを犯した射手に対して歓声や罵倒といった野次が飛び交わってもおかしくない状況なのに周囲は静まり返っていた。

 ここに居るのは全員優秀な研修生ばかり、今起きている現象に疑問を感じている。

 ここで5番艦とは戦闘中だけ付けられる符号みたいな呼び名で本来はディークインパクトエクシード号の名前を持つ巡洋艦。

 ケンタウルス族を始めとする戦闘民族の人達は人名は短く乗艦名は長いものを付けたがる傾向があり寿限無みたいな長い艦名を持つものもある。

 そんな長い名前を戦闘中にいちいち呼ぶわけにもいかないので並んだ順番に符号を付けて呼んでいた。

 それはさておき、皆が凝視しているスクリーンの中では真っ直ぐ飛ばなくてはいけないペイント弾が的の直前で大きく左へカーブしてまるでそこにガラスの板でも置いてあったかのように弾け黄色いペイントを垂直面へ広げていく。

「高重力場発生! 衝撃波来ます」

 警備隊5番艦の艦橋で環境管理士が外部で起きている異常について情報共有すべく声を荒げた。

 スクリーンではペイント弾が弾けた宙域が更に濃ゆい闇色となって迫ってくる。

「防御バリア展開! 衝撃に備えろ!」

 教官のレッド隊長が叫ぶように命令を下す。

 その10秒後に衝撃波が到達したけど彼等がのる艦船はペイント弾ほど脆くなく被害は全く受けていない。

「艦隊立面展開開始、状況確認報告せよ」

 守備隊アンバ隊長は平面展開していた自軍を立面展開に変えて情報収集能力を向上させる。

「前方距離1光分高重力場拡散中」

「ペイント弾は高重力場発生時の衝撃波で爆発した模様」

 環境管理士が外部宙域状況を報告してきた。

「全艦隊撤退用意、最後尾5番艦は後方注視」

 レッド隊長とアンバ隊長は通信機をリアルタイムオープン回線で接続しているので意思疎通のトラブルに見舞われることなく6艦づつが整然と冥王星へ向け退却していく。

「あれから半日経ちますけど変化ありませんね」

 レッド隊長が落ち着いた表情でスクリーンを見ているアンバ隊長に声を掛けた。

 ここは演習場所から10時間戻った冥王星守備隊が生活基盤にしている母線エム10が回っている衛星軌道上。

「ああそうだな、あれから大きな衝撃波は発生しなかったしミサイルが飛んで来て攻撃されるようなこともなかったのは良かったかな」

 アンバ隊長はレッド隊長が乗っている天王族警備隊旗艦オグリキャップエターナル号艦橋へ来ている。

 普段に於いてケンタウルス族と会う場合にはこちら側から出向くことが礼儀とされていた。

 それはケンタウルス族が馬の胴体を持っているのに起因していたから。

 彼等がヒューマノイドタイプを基準に設計された構造物に入るとぶつかって怪我したり壊したり、はたまたそれらを回避しようとすれば這いつくばったりしなくてはいけないので他種族の人々は気を使った。

 それが他との交流を敬遠していた理由の一つにもなっている。

「どこの誰が事前申告もなしにこんなことをしたのでしょうかね」

「アルファ星方面と言っていたかな」

「あっ! そういえばアイリーンからC2まで帰ってきたと連絡があったのは昨日でしたね」

「140光年を5年で往復したのだから4光年なんてあっという間なのかもしれないのかな」

「アンバ隊長はアイリーンがやった事だと思いますか」

「昨日の連絡では海王族艦隊も一緒だと言っていた、プローン男爵がレヴィ姫を手中に納めていたら定期航路は使わずに一刻も早く帰りたいと思うのではないかな」

「あの傍若無人男爵ならワームホールが無くても平気でグラビデ弾を撃つかも知れませんね」

「そんな馬鹿げた無駄なことは本人がしたくても周囲が引き止めなくてはいけないのではないのかな」

「馬耳東風独断専行男爵みたいですよ、自分の意に沿わないものはその場で切り捨てるとか噂になっているそうです」

「そういうことを言うと悪い予感しかしなくなるのであまり言わないで欲しいかな」

「悪い予感と言えば過去の記録にバーナード星の遭遇戦というのがありましたね」

「何もない宙域にグラビデ弾を撃ち込んでいたらコスモトンネルの横っ腹に穴を開けてしまい、たまたま通過中の中央連盟艦隊に損害を与えて交戦になったという話しだったかな、一体何をやっていたんだか」

「そうですね、今回の私達と同じ事をやっていたのではないと思いたいです、でもまあ海王族艦隊もよくB99と合流できたと思いますよ」

「そうだな、そこに愛があればいいのだが……ともかくあの新しいコスモトンネルを作ったのが誰なのかが明確にならないことには安心のしようもないかな」

「さてはて鬼が出るか蛇が出るかどちらにしてもコスモトンネルの開通が待ち遠しいですね、それまでここで待機ですか」

「そうだな、待つのも訓練だけど警戒を強めて近くまで行ってみるのも良いのではないかな」

「ここからだと15時間ですものね、緊急回避ができる最短距離の3光秒90万Kmまで近づきますか」

「そうだな、そこで48時間の神経戦を行おうか」

「8時間3交代で2日間の張り込みですね」

「48時間というのは訓練生の限界時間だからそれを過ぎれば撤退かな」

「その時は監視衛星でも置いて帰りたいのですけど無い物ねだりですね」

「それを言うなら巡洋艦を1隻無人にして残しておけばいいのではないかな」

「その手がありましたね、遠隔操作ができるようにすれば問題なしです」

「4時間後に再出航でいいかな」

「問題ありませんけど本当に訓練生を連れて行っても大丈夫でしょうか」

「ここに居るのは優秀な連中だから大丈夫だろうし、初回の冥王星調査隊みたいな失敗を繰り返させないためにも実践経験は必要だと思うかな」

 アンバ隊長は100年ほど前から冥王星守備隊として駐留しているのだけど本星に基地を建造して拠点とすることはなかった。

 それは海王星を海王族が支配しているように冥王星はアンバ隊長が駐屯する100年以上前からサロメの名義で登記されていた、というのもあるけど地上にドームを建造して宇宙を懐かしむくらいなら最初から宇宙船で生活した方が色々な意味で楽なのではないかと考えたから。

 まあ、そんなこんな過去の話は置いといてアンバ隊長とレッド隊長はそれぞれの訓練生を従え冥王星から180光秒5400万Km離れた高重力場発生場所へ到着し監視を始めようとしている。

 何時ものようにアンバ隊長はレッド隊長の乗艦を訪れていた。

 いくらリアルタイムオープン通信といえ直に会って話をする方がいいからに決まっているから。

「コスモトンネルは既に繋がっている……のかな」

「そうみたいですね、結果論になりますけどこんなことなら退避する必要はなかったですね」

「大したことが起きなかった結果だったから言えることかな」

「向こうにB99が見えますね」

「行こうか」

「行きましょう」

 向こう側には海王族艦隊を率いているプローン男爵が居るだろうから先にレッド隊長だけが通り抜け安全を確認する。

 レッド隊長からの通信を受けて残りの艦隊が出来立てのコスモトンネルへ入って行く。

 B99の近くに2艦隊を留めて二人の隊長が連絡シャトルに乗り石橋艦長に会いに行った。


挿絵(By みてみん)

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