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237.アンバ隊長が来た

 ケンタウルス座アルファ星から太陽系へ向かう定期航路のまだまだアルファ星側で始まった宇宙大怪獣モングラーと海王族艦隊とスターキッドの三つ巴による戦いでは海王族艦隊がモングラーに破れ全滅した。

 そしてスターキッドとモングラーの一騎打ちになるかと思えたその時にスターキッドの後方から飛んできたグラビデ弾によりモングラーが倒されあっけなく幕を閉じている。

「何が起きたのかしら」

 操縦席に座っていたアイリーンがグラビデ弾が飛んできた後方を振り向く。

「私に聞かれても困るな」

 コクピット出入口横の定位置に立っているピエロがそう言って環境管理席を指差す。

「後方0.5光秒位置にB99現出しています」

「現出っていきなり現れたのかしら」

「B99だったらシュー・ウォッシュナビで来たってしか考えられないよね」

「良くここが分かったな」

「そう言えば光ちゃんはどこかしら」

「倉庫には帰っていなかったからまだ外かも知れないな」

「光妖精がモングラーにフラッシュで目潰しした後B99に居るロースさんに知らせに行ったんじゃぁないかなあ」

「それは凄い事なんじゃないかしら、ご褒美をあげないといけないわね」

「宇宙服に勲章でも付けたら喜ぶと思うぞ」

「石橋艦長から通信、スピーカーに繋ぎます」

「全員無事か? 至急格納庫へ着艦し検疫をうけること」

「ちょっと待って下さい、この戦闘宙域で戦った海王族の人は生存している可能性が高いですので先に捜索してから戻ります」

「了解、こちらからも応援の小型艇を出し協力させる、ひとつ確認だけど海王族艦隊は味方なんだよな?」

 石橋艦長が不安そうに聞く。

 炎妖精ロースから伝え聞いたところではアイリーンが魔物と裏切者に苦戦していると意味不明の内容で聞いていたから。

「思っていたより大人数になったかしら」

 スターキッド倉庫には25人の海王族戦士が座ったり横になったりしていた。

 応援の小型艇10機で200人、B99で100人を救助している。

「早くB99に届けて僕たちも明日に備えて休まないといけないよね」

「明後日にはコスモトンネルが使えるって言ってたかしらね」

 モングラーが居たワームホールはB99が撃ち込んだグラビデ弾でコスモトンネルへ変化している最中。

 安定するのに3日は掛かるそうなので戦闘宙域で漂っている生存者や部品の回収をして待つことにした。

 ただモングラーの死骸が見つかっていないのには不安が残っている。

 スターキッドがB99の格納庫で検疫を受けたのは日付が変わった未明になってから。

 アイリーン、昴くん、ピエロ、アシュラ、ルビーと海王族戦艦ファーストドラゴンからアポーツで戻って来たレヴィはくたくたな状態でホームへ戻りそれぞれのベッドに倒れ込み深い眠りに落ちていく。

 翌日最初のお仕事はスターキッド倉庫片付けから始まった。

 ダイムとセントが仕分けを行い不要と判断された物はアイリーンが確認してパワードスーツを着た昴くんが艇外へ放りだしている。

 一見してゴミと思われる物でもアイリーンにとっては大切な思い出の品であったりするから存外大変な作業になった。

 石井光一を今回初めてスターキッドへ連れてきて過去の記憶が蘇らないか期待したのだけど懐かしい感じがするかも知れない程度で終わっている。

 ピエロもパワードスーツを着て必要品をコンテナに入れB99の倉庫へ移動する役割を担う。

 その際全てをコンテナに入れるのではなく手元に置いておかなければいけないものをチョイスする微妙なさじ加減を独自の判断で行っている。

 ちなみに何を手元に置いたかというと、ハーフボトル酒瓶数本、レヴィの竪琴、キャンプセット等がありこれらは必要とする人が休憩室の片隅に移動していった。

「これでここに百人くらいは入れるかしらね」

 片付けが終わって広々となった倉庫を見渡しながらアイリーンが言う。

「昨日だいぶ救助したから今日はそんなに居ないと思うよ」

「今日は何か目新しい機材を回収したいとは思わないか」

 ピエロがダイムとセントをそそのかす。

「僕たちもコクピットに居て良いのですか」

 ダイムが瞳を輝かせながら聞く。

「もちろんだとも君たちの鑑識眼がないと私達はつまらないゴミばかりを回収して本物の貴重品を見逃してしまうだろうからな」

 そういう訳で環境管理補助席まで入れて定員5名のコクピットにアイリーン、昴くん、アシュラ、レヴィ、ルビー、ピエロ、ダイムとセント、石井光一の九人が詰め込むように乗っている。

 そしてアイリーンの提案により石井光一が操縦席、アイリーンが副操縦席に座った。

 アイリーンが感慨深げに操縦席の石井光一に視線を移す。

「お兄ちゃんはあの頃キャプテンライトと呼ばれていたのよね、うちは一度だってその呼び方はしなかったけどね、ねえ、何か思い出さないかしら」

「ごめん何も思い出せないんだ、それより何をどう触ったら良いのかさえわからなくて怖いのだけど、もうここから離れてもいいかな」

「いきなり試すようなことをして悪かったわごめんなさい、操縦はAちゃん……スターキッドAIがしてくれるから大丈夫だったのよ」

 そう言いながらアイリーンは副操縦席から立ち上がる。

(そうよねあの時のうちは4歳だったかしらね、もう少し幼女のふりをすれば良かったのかしら)

 昴くんが副操縦席に座りセッティングを直している姿を見ながらそう思う。

 2日目の捜索では要救助者の発見には至らず死亡者を25人とダイムとセントが目を輝かせながら指示した原型を保っている機材50個程を回収したところで倉庫が一杯になったのでその日の外回り作業を終了した。

 モングラーとの戦闘宙域で捜査を開始してから最終日となる3日目の未明、熟睡している昴くんは夢の中でアイリーンの声を聞く。

「昴くん起きて、起きてよ昴くん」

(愛鈴、男が寝てる部屋に入ったらダメなんだからね)

 昴くんは夢の中で返事する。

「愛鈴……どうしたのかなあ、まだ夜中だよね」

 体を揺すられて夢と現実の狭間に入った。

「アンバ隊長が来てるってAちゃんに起こされたのよ」

 薄目を開けると宇宙服を着たアイリーンがベッドの横で仁王立ちしている。

「そう、いつの間にか冥王星に着いたんだね」

 アイリーンの目から逃れる様にタオルケットを頭まで引き上げ寝返りを打つ。

「うちの言うことを聞きなさいかしら」

 昴くんが自分の体に巻き込んだタオルケットの向こう側を掴んで思いっきり手前に引いた。

 す巻きに巻いた巻き寿しが転がるように綺麗にベッドから転がり落ちていく。

「いたたたたたいたいよ愛鈴……もし僕が素っ裸で寝ていたら君はどうするつもりだったんだい」

「どうもしないわよ、それとも何かしてもらいたかったのかしらスケベな昴くん」

(こういう話題は愛鈴の思う壺にはまってしまうよなぁ~)

「それで冥王星警備隊のサウル隊長が何しに来たんだって」

 昴くんは素早く話題を切り替えパジャマを脱いだ。

「冥王星防衛隊のアンバ隊長よ、警備隊なら天王星のレッド隊長でサウル隊長は辺境だったんじゃなかったかしら」

 アイリーンはこれ以上時間を無駄遣いしたくなかったから大人しく背中を見せて話をしている。

「もしかして新しく出来たコスモトンネルを通って来たとか言うんじゃあないよね」

「その通りよ他にどうやって来るってのかしら」

「普通に定期航路のコスモトンネルを使って来たとかさ」

「防衛隊は遠征隊じゃないかしらね」

「それもそうだね」

「着替え終わったかしら、早く艦橋へ行きましょう」

「うん、待たせたね行こうか」

「なんだ宇宙服を着てるじゃない、だったら待つ必要もなかったかしら」

「僕は君じゃないんだから、パジャマの上から宇宙服を着て歩きながら中で脱いで小脇に抱えるなんて器用な真似はできないからね」

「まっ、負けを素直に認めたんなら許してあげるかしら、ほら急ぐわよ」

 艦橋に着くと既に皆は隣接する扉がない部屋に集まっていた。

「こういう作りはどこも一緒なのかしらね」

「扉が無いトイレみたいで落ち着かないんだろう」

 そわそわしているアイリーンを見た昴くんがこそっと耳打ちする。

「ここは様々な出来事に対応できるオペレーションルームになっているんだ」

 石橋艦長が自分の方へ手招きしながら言う。

 目の前にはアンバ隊長とレッド隊長が既に座って待っている。

 いや、ケンタウルス族のレッド隊長はその強靭そうな4本足で立っていた。

「レッド隊長も来てくれたのね嬉しいわ」

 アイリーンがまだ眠そうな目をこすりながら欠伸を嚙み殺す。

「お待たせしてすみませんでした」

 昴くんが社交辞令的な挨拶をする。

 アイリーンは椅子に座るタイミングで昴くんの背中側へ回り込み大きな欠伸をした。

(だってまだ起床時間前なのかしらね)

「こちらこそ非常識な時間帯に来てしまい申し訳なく思っています」

 当然アンバ隊長たちは昼夜の区別なく働いているのだから非常識な時間帯というものはない。

 だけどアイリーンが就寝中と聞いてこちらも社交辞令で返している。

「まあ、二人はこちらに非常事態が発生したと思って来られた訳ですから感謝の気持ちを持ってこれからの話し合いを始めます」

「それで何を話そうってのかしら」

 寝起きのアイリーンは少し不機嫌。

「これまでの概要は説明しましたけど詳しい内容についてはまだ私共も正式な場で説明を受けていませんでしたのでこの場でお聞かせできませんでしょうか」

 石橋艦長が改まって言う。

「議事録として残しておくのですよね」

 昴くんはそれも必要かと考えた。

 アケルナルまで短期間で往復できたことの顛末を石橋艦長がアイリーンと昴くんから聞き取りながら手短に纏め話す。

 石橋艦長の話が終わるとアンバ隊長がここへ来た理由を話し始めた。

 話し合いは小一時間ほどで終わり皆で朝食を取った後コスモトンネルを通って冥王星へ戻っていく。

 アケルナルとプロキシマ・ケンタウリ合わせて144光年を5年と3日で往復した旅は終わった。

挿絵(By みてみん)

これからも宜しくお願いいたします。

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