235.アンバ隊長の追跡
太陽系第3惑星地球が有名な観光地となり宇宙人達が大挙して押し寄せる以前から第8惑星海王星を支配していたのは海王族。
地球歴AD1000年にナスカで開催された宇宙人格闘技親善大会はカシオペア座イプシロン星人の富豪アドウェルによる陰謀の一部だった。
何も知らない当時の海王族族長リバイアサンは名声を求めてそれに参加し優勝するがそのまま彼の陰謀に嵌まり過去にタイムトラベルさせられアトランティスを海に沈めた張本人アドウェルの身代わりにされてしまう。
真夜中、大西洋上空に現出したリバイアサンが漆黒の海に次々と沈んでいく島々をボーっとした頭で意味も分からず眺めている。
その両手には時間移動で気を失ったレヴィが優しく包み込まれていた。
目を覚まさない娘の顔を心配そうに覗き込む。
すると目前にタイムパトロール12機が突然現出し問答無用に一斉攻撃を受けた。
度重なる時間移動のせいで脆くなっていた時間軸が攻撃の影響で崩壊しリバイアサンとレヴィを元居た世界にタイムスリップさせる。
そこはブリザードが吹き荒れる南極大陸。
目が覚めたばかりのレヴィは自分を守るように抱く瀕死の父から遺言を受けたあと亡骸を氷山に押し込み隠す。
追ってきたタイムパトロールと交戦したけどなす術もなくその場で氷漬けにされてしまう。
連盟は海王族へ損害賠償請求を行ったけど冤罪だとして受け入れられず彼等は返事の代わりに鎖国を開始した。
その後だいぶ経ってから連盟は海王族との再交渉に使うため移民船エム08のコールドスリープカプセルに氷漬けにされたままのレヴィを重罪人リバイアサンとして入れる。
しかし再交渉自体が実現せずレヴィはコールドスリープカプセルに入れられたまま移民船の中で時を過ごし2018年に冥王星のイノマン研究所で目を覚ます。
アイリーンがレヴィの記憶を頼りに南極大陸氷山の下で氷漬け状態となったまま生き続けていたリバイアサンを助け出したのが2026年。
東域宇宙和平維持連盟2代目司令官オビスがリバイアサンの罪は冤罪だったと告知し賠償金を支払うことで海王族はそれを受け入れ和解が成立してそれまで行っていた鎖国を終わらせている。
そんな歴史の中でも鎖国以前から近年に至るまで唯一交易を続けていたのがお隣第7惑星天王星からやって来るケンタウルス族商人だった。
ケンタウルス族商人は海王族に日用生活品とか食料を海王星でしか採れない資源と物々交換して東域宇宙和平維持連盟に貴重な情報という付加価値を付けて高値で売りつけていた。
海王星は海王族軍隊によって守られていてそこがそのまま太陽系の最前線防衛基地になっていたからそこで得られる情報はたとえ些細なものでもレアメタルより貴重になる。
そういう訳でケンタウルスの商人は品物以上に情報を求める傾向が強くなっていた。
地球歴2029年7月26日、海王星を訪れていた商人クラウトが『海王族艦隊がケンタウルス座アルファ星へ向け出航した』という情報を入手する。
彼は優秀な商人で情報というものは生鮮食品よりも鮮度が大事であることを十分理解していたから直ちに超高速通信を使って天王星警備隊レッド隊長へ伝えた。
この場合の報酬は現金ではなくて『貸し』にしている。
いつか警備隊の力が必要になった時に返してもらえるようにすれば良いから。
「海王族が艦隊を率いて太陽系から出ていくのは初めての事だと思うけど、やっぱりあれなんだろうな、困ったことだと私は思うのだけど君はどう思う?」
レッド隊長が得た情報には今回出航した海王族艦隊には悪評の噂が絶えないプローン男爵の私兵が数多く乗り込んでいるという事例がおまけとして付いていた。
折しもアイリーンから戦艦B99がケンタウルス座アルファ星へ向かうと数日前に連絡があったばかりなので気になって仕方がない。
一人で考えても埒が明かないと思った彼は情報入手の翌日には緊急連絡用として開通させたばかりのうずしおを使って冥王星守備隊アンバ隊長の元を訪れ自分の艦へ招いて相談していた。
「私も同意見かな、だいたい海王族がアルファ星へ向かう理由なんてひとつもありはしないだろう」
アンバ隊長がこめかみを押さえて言う。
「やっぱり君もそう思うかい、私と違う考えを持っていることを期待したのだけどね、だったら君の冥王星防衛隊としての権限で海王族艦隊を止められないかな」
「無茶なことを言っているって自覚を持っての発言だよな」
「済まなかったよ、言わないことには私の気が収まらなかったので気にしないで欲しいな」
「その通りだ、指定された宇宙航路上を公務中のビーコンを出しながら進んでいる戦艦を呼び止めようってのは手袋を相手の胸元に投げつけるのに等しい行為だと思うぞ」
「私たちは彼らが通り過ぎて行くのを指をくわえて見てるだけしかできないのかい」
「見てるだけが嫌なら後を付いて行こうか」
「あはは、君は時々とんでもない冗談を言うんだね」
「彼らがどこに行こうと彼らの自由があるように僕らがどこへ行こうと彼らに誰何される理由はないと思わないかい」
「それはそうだけど冗談じゃなかったんだね、それに付いて行くにしてもここを離れて大丈夫なんですか」
「なに、そんなに長期間でなければ残された者達にとっても良い訓練になるのではないのかな」
「じゃあ、私も付いていける所まで同行するよ」
「それはむしろ望むところではあるけどまあそうだね、ああは言ったものの彼等をわざわざ刺激することもないだろうから索敵に掛からないように、そうだな冥王星領域を通過してから半日後に出発しようと思うのだけど異存はないよな」
「じゃあ、それで準備しよう具体的には何時が出発時刻になるんだい」
「ちょっと待って・・・彼らがこの宙域を通り過ぎるのは50時間後だから明後日の23時にしようか」
「闇夜に紛れて出航って何かワクワクしないかい」
「ここは昼も夜もない真っ暗闇の世界でしょう」
「あはは、アイリーンならそう言うかなと思ったんだよ」
「あの子は楽観主義者だからな」
「そうだよね、そんな感じで海王族が王位継承で揉めている中その中心人物になっているお姫様を遠足気分で連れ出しているんだから、まあとんでもない事になっても仕方がないかな」
「それにだよアイリーンの横には地球出身の昴くんが居るからね、世間知らずのレヴィ姫がもし彼を夫にしたいと言い出したらどうなると思うかね」
「そんなとんでもなく恐ろしいことは想像したくないよ、今聞いただけで鳥肌が立ってしまったじゃないか」
「そういうことだよ、プローン男爵もさぞ焦っているんじゃないかと思う」
「そうかあー、レヴィ姫の夫が海王族族長で王になるんだったよなー」
「レヴィ姫の夫が誰でもいいというのなら私が立候補してみようかな、はっはっは」
アンバが大口を開けて笑い出す。
「冗談が過ぎますよ、あちらの貴族から選ばないといけないんですよ」
「ウァッハッハ、レヴィ姫が夫となるのは私でなければ嫌だと言ったら私が王になれるのではないかな」
「そうか、そうですね、じゃあ私もレヴィ姫に求婚してみましょうか」
「それこそ冗談だ、まあそういう意味でプローン男爵はレヴィ姫が乗っているB99を追っ掛けているのは間違いないだろう」
「色々な意味で悪評を持つプローン男爵のことだからどんな手段を使ってでも海王族の王になるつもりなんでしょうか」
「その通りだと思う、だからアイリーンが阻んでくれると信じよう」
「怖いもの知らずですからね、無鉄砲が過ぎなければ良いのですけど」
二人はアイリーンが仲間を助けるためなら何の躊躇いもなく火中の栗を拾いに行く性格をしていたことを思い出していた。
それから2日後アンバ隊長とレッド隊長はそれぞれの乗艦に巡洋艦を2隻づつ従え先行するプローン艦隊の索敵に掛からないように追従していく。
相手の索敵に掛からないということはこちら側からも先行する艦の位置情報が得られないと思うのだけどそこは定石となっている戦術が幾つかあり今回はカイパーベルトに点在する隕石群を見つけては距離を詰め位置情報を取得していた。
プローン男爵はひたすらB99を追い掛けていたのだけど大きな誤算をひとつしている事に気付く。
レヴィ姫を乗せたスターキッドが海王星宙域で追跡から逃れるためにテレポートしている事は連絡を受け知っていた。
だから当然近くにいるだろう母船B99へ戻ったと信じて追跡を開始している。
やっとB99の発する微弱電波を傍受してみるとスターキッドは既にケンタウルス座アルファ星宙域をアケルナルへ進路を取り飛行していることが判明した。
それでも彼らは追跡を諦めない。
レヴィ姫を乗せたスターキッドは必ずB99に戻ってくると信じていたから。
当然その情報は追跡中のアンバ隊長たちも知ることになった。
「さすがのスターキッドにしても早過ぎだろう」
アンバ隊長はリアルタイムオープン通信でレッド隊長と話している。
「早速無茶をしたのではないでしょうか」
「これから先はアケルナルに進路を変更するのだよな」
「そうでしょうアイリーンはC2に寄ってからアケルナルへ向かうと言ってましたから」
「妖精の力による時空間移動を使うと言っていたな」
「シュー・ウォッシュナビでしょう、元々カシオペア艦が使ってましたね」
「プローン男爵がどうするか気になるところではあるけど時空間移動されたのではそれ以上付いてはいけない、帰ろうか」
アンバ隊長がレッド隊長に追跡の終了を持ちかけ帰途に就く。
それは今からちょうど5年前、2029年の8月に入ったばかりのことだった。
それから毎年8月になると天王星レッド隊長は自軍の中で行われる模擬戦を勝ち抜いた精鋭から5隻を同行させ冥王星アンバ隊長の元を訪れている。
今年もいつもと違わず冥王星から2光分、3600万Km離れた宙域でお互いの選抜部隊による合同演習を行っていた。




