234.モングラー3
宇宙の深淵で発見したワームホールに突如として現れた巨大怪獣。
それに翻弄されるまま巡洋艦1隻を失った海王族艦隊プローン艦長は意気消沈してしまい覇気をなくす。
「艦長、退避命令をお与えくださいこのままでは戦艦サードドラゴンも奴の餌食になってしまいます」
副長が叫ぶ。
「ハッ! 呼び戻せ弾幕を集中、退路を確保しながら態勢を整えろ!」
部下の叱責にも似た言葉で我を取り戻す。
「左方10光秒距離にスターキッド確認! 高速接近中です」
「何ともはや、飛んで火に入る夏の虫とは正にこのこと、天は我に味方せり全艦撤退準備」
「サードドラゴン大破! 第3小隊壊滅しました」
「間に合わなかったというのか、このまま攻撃の手は緩めず後退……撤退する」
「スターキッドを見捨てるのですね」
「このまま戦っていては被害が増えるばかりだ、その点スターキッドなら何とかなるだろうよ」
「でしたらせめて電文を送られては如何でしょうか」
「そうだな我々が尻尾を巻いて逃げるという不名誉な誤解はして欲しくないから適当な内容で送れ」
「了解」
(何でワームホールの中に潜んでいる怪獣があれほど強いんだ、データーにないということは他の誰も遭遇していないと言うのか、それとも遭遇したが最後生きては帰れないとでも……)
「被害状況報告、旗艦を先頭に縦列隊形で続け」
(しかし北方星域艦隊との激戦で1隻も失わなかったのにあんな怪獣に2隻もやられるとは情けない限りだ)
「第1、第2小隊被害なし」
「全艦戦闘態勢解除、副長!」
「ハイ」
「後は任せた、緊急事態以外は呼ぶな」
「了解」
(レヴィ姫を可愛がって憂さ晴らしをするか)
プローンが鼻歌を歌いながらレヴィ姫の元へ向かっていく。
スターキッドは左目を潰されたことに異常なほどの執着を持った怪獣に付きまとわれ前足から繰り出される攻撃と噛みつきから逃れるのに精一杯で海王族艦隊が卑劣な退却行動を取っているのに抗議する暇がなかった。
「何か良い手はないのかしらね」
操縦席に座ったアイリーンが辟易とした表情で後ろの昴くんに助けを求める。
「僕らも退却すればいいんじゃあないかなあ」
イノマンのポーズで返事した。
アイリーンのアポーツで戻ってきたレヴィも昴くんの横で頷いている。
「僕も退却に賛成です。こっちの攻撃がど真ん中に命中してもダメージを与えたって感じがしないじゃないですか~、なのにあっちの前足がちょこっとでも掠ったら僕は再起不能になっちゃうんですから割に合わないですよー」
スターキッドAIが珍しく理屈をこねた。
「ここへ来た目的はレヴィに会うためであって怪獣退治ではなかった筈です」
アシュラの指摘。
「あれって食べたら美味しいでしょうか」
ルビーの感想。
「……」
「まああれだ非常に残念ではあるのだがな、あれを使ってみるという手段は残っているかな」
ピエロが本当に嫌そうに言う。
「ピエロのあれってもしかしてお土産に持ってきた倉庫にあるお酒のことかしら」
アイリーンも閃いた。
(そうね、12箱全部使わなくてもいいんだし半分いや……)
アイリーンは素早く計算する。
「まず2箱ぶつけて様子を見ましょう、効果があれば追加するで良いかしら」
「では準備に入ろう、完了したら連絡する」
「手伝いますわ」
ピエロとアシュラが席を立ち倉庫へ向かう。
環境管理席が空いたのでレヴィが座る。
(まだ10日も経っていないのにずいぶん久し振りに思えますわ)
コクピットを出ていく時に昴くんの肩をピエロがポンと叩き副操縦席を指差す。
「僕も手伝いましょうか」
「君がお酒の匂いで酔っ払ったりしなければな」
昴くんは手を振ってピエロとアシュラを見送るしかない。
「さっきからまるでモグラ叩きゲームをしてるみたいになっているよね」
「うちも同じことを思ってたわ、キッドがモグラ役かしらね」
「そんな言い方って酷くないですかぁ~、あの怪物、アイリーンが勝手に名付けたモングラーを正式名称にしますけどね、あれはあの穴から出てこないのですよー、だから完全に出た時どうなるのか気になりませんか」
スターキッドは加速と停止を繰り返し相手を引き釣り出そうとしているのだけどその姿が滑稽に見えた。
モングラーがスターキッドのスピードに全く付いていけていないからそう見える。
「うちが知っている地球のモグラは地上に出ると死んでしまうんじゃなかったかしら」
「昔の人はそう思っていたらしいけどそれは間違いらしいよ」
「そうなのね、でも暗闇の世界で生きる住人なんだからお日様の光には耐えられないんじゃないかしら、ほらドラキュラだって太陽の光で灰になってたわよね」
「モグラとドラキュラを同列で見れるのは君ぐらいだろうけどさ……光ねえ」
「そうよ光ちゃんにお願いしてみようかしら」
「それは良い考えかも知れないね、モングラーの前でフラッシュみたいに閃いてもらったら効果があると思うよ」
「じゃあさっそくお願いしてみるかしら」
「ピエロさんから連絡、アルコールミサイルの準備完了しましたって」
スターキッドAIの報告。
「了解って返事してね」
「ラジャー」
光妖精によるフラッシュの協力が得られることになりスターキッドがモングラーの周囲をできるだけゆっくり、それでも攻撃の手には当たらないくらいには早く飛びイラつかせる。
暫くするとモングラーは癇癪を起こしたみたいに両手を上げて吠えた。
「今よ!」
アイリーンも釣られたかのように吠えた。
スターキッドとモングラーの間がまぶしく光りモングラーは両手で目を押さえ更に大口を開けてのけ反る。
その口めがけてアルコールを満載したミサイルが命中すると動きが止まった。
「あれで死んじゃったのかしらね、何だかあっけない最後だったかしら」
「まだ死んだって確定したわけではないから今のうちにワイヤーフックを引っ掛けて引っ張り出そうよ」
「その前にあの穴が閉じてしまうかも知れないからな何か対策をしていた方が良いと思うぞ」
倉庫から戻ってきたばかりのピエロが指摘する。
「そうよね用心あれば憂いなしって言うかしらね」
「備えあれば憂いなしだよ」
何時ものようにアイリーンの間違いを昴くんが訂正した。
「グラビデ弾があれば一番いいのだが、ないものねだりはできないから代わりになるものを考えるしかないぞ」
「そんなこと言ってもこの辺りにはバラバラになった戦艦とか……あっ、回避して!」
環境管理席からレヴィの叫びよりわずかに早くスターキッドは回避行動を取っている。
元居た場所を光圧縮弾が通過していく。
「一体何なのかしら」
「索敵報告して下さい」
「敵はシークレットモードにしているかも知れないぞ」
「光圧縮弾軌跡を辿って石礫弾連続発射!」
「敵防御バリアに反応」
通信席から音響探索していたルビーが告げた。
「敵影確認、戦艦2巡洋艦7隻、海王族艦隊です」
環境管理補助席に座ったアシュラが報告してくる。
「何ですって!」
コクピット内で驚きの稲光が走りレヴィに視線が集中した。
「私を連れ戻しに来たのでしょうか」
「いいや、この攻撃を見る限り殺しに来たのが正解だろう」
「もうこの宙域から退避しましょうよ~」
スターキッドAIがうんざりしたように言う。
海王族艦隊からの波状攻撃は第1波、第2波、第3波と続いていて全てスターキッドAIの自動操縦で躱していた。
おまけにモングラーまで目を醒まし前足で攻撃してくる。
スターキッドAIは堪り兼ねてモングラーが頭を出しているワームホールの後ろに回り込む。
「こっち側からだと向こうが丸見えなのねワームホールの存在がなくなったみたいかしら」
「ワームホール自体が時空間に開いた穴だからこうなるのだろう」
「向こうの艦隊からは僕たちが見えないのでしょうか」
「モングラーの後ろに居るのは察知できているのではないかな」
「ここから攻撃してみましょう、石礫弾の他には何があるのかしら」
「光圧縮弾とミサイルだけだね、今度からレールガンも撃てるようにしようよ」
「あれはエネルギー消費が激しいからお勧めできないぞ」
「石礫弾ならその辺りから補充できるよね」
「だったら石礫弾の連続攻撃を開始するわよ」
スターキッドはモングラーの後ろから反撃を開始する。
それが海王族艦隊にはワームホールから石礫弾が飛んできているように見えた。
海王族艦隊は相変わらず1光秒先で横一列密集隊形を取り光圧縮弾を乱射している。
光圧縮弾の物量と拡散エネルギーによって石礫弾はその殆んどが途中で消滅していく。
海王族艦隊による攻撃はどちらかというとモングラーに命中する方が多い。
だからモングラーは激怒した。
奴らはどんなに手を伸ばしても到底届かない距離を取って悠々と攻撃してくるのだから。
そしてもう一つの存在は我が身の後ろに隠れ安全な場所から前面の敵に向かって攻撃している。
どちらも粉々に破壊しなくては気が済まなくなっていた。
遥か30万Kmの距離を取って安心しきっている敵の鼻先までワームホールの縁をを掴んで瞬間移動する。
間髪入れず左前脚による横殴りの一撃で敵右端の巡洋艦を薙ぎ払うと次々と5隻が将棋倒しのようにぶつかり潰れていく。
何が起きたのか理解する間も与えないまま今度は右前足による攻撃で残りの4隻も同じ様に破壊された。
そしてワームホールがゆっくりスターキッドの方へ向きを変え始める。
「来たら下に回避よ」
アイリーンはモングラーが攻撃してくるタイミングで前足を最大限に伸ばした時、その腹目掛けて攻撃することに活路を開こうと本能が告げていた。
「後方よりエネルギー反応、グラビデ弾来ます!」
「下へ回避!」
スターキッドはキャプテンの命令より早く下へ回避している。
ビビリのAちゃんと言われる理由がここにあった。
グラビデ弾はそのまま直進しモングラーの顔面へぶち当たり奥へと押し込む。
更にもう3発、グラビデ弾がワームホールへ次々と吸い込まれていく。
「避けなくても当たらないように撃ったのだけどな」
スターキッドの後方に現れたB99の艦橋で石橋艦長は呟いた。
パンダラスとパナメイ




