232.モングラー1
アイリーンはコクピットの操縦席で朝の仮眠をしていた。
まあ世間体を気にしなければ二度寝と言ってもいいのだけど。
そこからいま目覚めようとしている。
「ああ~ふぅ、短時間だけど良く寝たかしら、しかしピエロにこんな趣味があったなんて全く知らなかったわね」
アイリーンが目を開けると正面スクリーンで怪獣映画が上映されていた。
そいつは巨大なモグラみたいな姿をした怪獣で宇宙空間に開いた穴から身を伸ばし前足で戦艦から発射されている攻撃を防いでいる。
そして今まさに攻撃を受けながら振り払った前足の一撃で近づきすぎた戦艦の一隻がバラバラになっていく。
「B級にしては臨場感が半端ない中々の迫力よね、ねえ何てタイトルかしら?」
「残念だがこれは録画ではなくリアルタイム映像だな」
「へえーそうなのね、映画の撮影ならうち達も通行人でいいから混ぜてくれないかしらね」
「メインキャストとして参入することは既に決まっている、今は倉庫で作業中の三人を呼び戻しているので待っているところだ」
「あんたも中々やるようになったじゃないかしら、こういうことには興味がないかと思っていたかしらね」
「どうもさっきから話が嚙み合っていないようだが、これは現実でいま怪獣と戦っているのは海王族艦隊、レヴィが死んでしまうかも知れないのだぞ」
「突っ込むわよ! ピエロもボサッとしてないでそこに座りなさいな」
怒気が一瞬にして最大限まで膨れ上がったアイリーンは副操縦席を指さす。
「志気を高めるのは良いことだがな冷静な判断力を失わないことの方がもっと大切だと思うぞ、ここは昴くんが戻って来るのを待つべきなんじゃないかな」
「あのモングラーが動かなくなったらうちも冷静になれるかしら」
(昴くん一刻も早く来てくれないと私では役不足だぞ)
「モングラーとはあの怪獣のことか? 名前があったとは驚きだな」
ピエロはキャプテン命令に従って副操縦席に座りセッティングを始める。
「名前なんて知らない、今うちが付けだんだから奴はモングラーかしらね」
「ここからでも遠距離ミサイルが撃てるがもう少し近づいて撃つか?」
「撃てるものは全て撃って、あの時撃っておけば良かったって後悔しないためにもね」
「了解した、発射する」
(撃たなければよかったと後悔するとは考えないのだな)
「Aちゃんレヴィが持ってるあんたの端末に通信して状況を聞いて」
「ラジャー」
「最大加速!」
「そんなことをしたらさっき撃ったミサイルを追い越すぞ」
「そんなのぶつからないようにするのが常識でしょう」
(お前の辞書には非常識の項目が抜けてるのではないのかな)
「弾よりも早くってまるで僕のことみたいですよね」
スターキッドAIはまだ戦場に入っていないので余裕を見せた。
「今からスーパーキッドとでも改名するか?」
「あなたたち三人はこれから始まる戦いの真っ最中でもその余裕を見せてくれるんでしょうね」
倉庫から急ぎ足でコクピットへ戻り環境管理席に座ったアシュラが言う。
ルビーもいち早く通信席でセッティングを始めた。
「あーっ、僕の席がない」
「遅れてきたあなたは暫く立ち見かしらね」
アイリーンは不敵な笑みを浮かべている。
スターキッドがモングラーの振り払ってきた手を躱す。
振り降ろされた手の上を後続してきたミサイルが通過しそのままモングラーの右目に命中した。
そしてモングラーは咆哮する。
「ほうら、うちの計算通りかしら」
「ほう、お前の頭はAI並なのだな」
「そうよAちゃんより賢いかしら」
「僕の方が賢いですうーっ」
スターキッドAIが文句を言い機体を揺らす。
「わかったわよ、あんたの方が賢い偉い逞しい、だからこれから先も尻込み発言はしないわよね」
「もちろんですとも」
「それでレヴィには連絡取れたかしら」
「端末からの反応がないのですよね、生体反応も確認できません」
「生体反応がないっていつからよ」
「端末をレヴィに渡した後から一度も確認取れてませんね」
「しまったわね、人種が違うからかしら」
「そんなことはありません、過去のデーターを分析したところアイリーンからレヴィに渡ってそれから不明人物に渡り電波が遮断されたみたいです」
「そんなことはあの時居た従者しかできないかしらね」
「他の通信手段を取りますか」
「何か良い方法があるとでも言うのかしら」
「レヴィが乗っている戦艦のAIにちょっと協力してもらってこちらの通信を艦内一斉放送で流してもらうのですよ」
「ファーストドラゴンのAIをハッキングしようってのよね、それは良い考えなのかしらね」
アイリーンはそう言うと副操縦席に座っているピエロに意見を求めた。
「それは最低な方法だと思うぞ、まあ最終手段としては採用されないこともないがな」
ピエロは二人の取り留めもない会話を早く終わらせたいと思う。
「ブ~ッ、じゃあピエロさんは何か案を考えているのですか」
スターキッドAIは不貞腐れた。
「そうだな、アイリーンがあの端末をアポーツで引き寄せそれをレヴィにテレポートで渡すのはどうかな」
「それはいい考えだと思うわ、あのチョーカー型端末はどこにあっても引き寄せられると思うしね、でもレヴィの側にテレポートで渡した時に目立つんじゃないかしら、その時一人ならいいけどそんなに都合のいい話はないかしらね」
「お前はレヴィのポケットに興味津々だったろう、そのポケットにならテレポートで送ることができるのではないかな」
「そうねできると思うわ、さっそくヤルわよ」
アイリーンがそう言い終わった手にはスターキッドのチョーカー型外部端末装置が握られている。
「あとはこれをレヴィのポケットにテレポートさせてと」
「レヴィから通信が入りましたスピーカーに繋ぎます」
「早かったわね無事に届いたみたいで良かったかしら」
「あまり良くはなかったですわ、いきなりポケットが膨らむのですから、変な声を出したではありませんか」
「それは悪かったわね他の人を胡麻化すのは大変だったかしら」
「部屋に一人閉じ込められていましたからそれは大丈夫なのですけど外で何か起きているのでしょうか」
「えっ、こんなに面白い状況が見えてないっていうのかしら」
「軟禁されているのではないのかな」
「そんな、お姫様に対してなんて仕打ちなの」
「誰もいない部屋に一人で居るのは不安でどうしようもないんじゃあないですか」
「まあ良かったのではないかな、レヴィがこの状況を知ったら真っ先に飛び出して戦い始めるのではないかとあのプローンとかいう男は考えたんだろうよ」
スターキッドのクルー其々が驚きや同情、怒りを吐き出す。
「アイリーン、私をそちらにテレポートさせて頂けないでしょうか」
レヴィがとんでもない発言をする。
アイリーンは考えた。
(見えてない人をアポーツで引き寄せたことなんかないわよ)
「ダメだからね」
昴くんが即断し大声を出して制止する。
他の皆も異口同音に同じことを口走った。
「プローンは私を強引に従わせようとしているのがここ最近の言動でよく理解できました、おそらく彼は私を王になるための道具としてしか見ていませんわ」
「ひど過ぎるなんて話しじゃないかしら、このままでは道具としての価値がなくなったら捨てられてしまうわよ」
アイリーンがやり場のない怒りで昴くんを睨む。
「わかったよレヴィをアポーツで引き寄せよう、でも今じゃないからね」
「今やらなくて何時やるのよ」
「レヴィ聞こえるかい、今いる部屋には窓が無いんだよね」
「窓も通信機も外部へ連絡する手段は何もないですわ」
「外が見える場所ならどこでもいいから移動できないかなあ」
「わかりました、ここのドア一枚壊せば自室に戻れますからそうします」
「できたら人的被害は出さないようにお願いするよ」
「努力しますですわ」
「スターキッドAIはファーストドラゴンにあるレヴィの自室がどこにあるのか調べてそこに貼り付けるほど接近して、愛鈴はモニター画面にレヴィが映ったら直ぐにアポーツできるように準備しておいてね」
「いつでも大丈夫かしら」
「窓からスターキッドが見えますわよ」
「おかえり、レヴィ」
レヴィはアイリーンの腕の中に引き寄せられていた。
事の成り行きを固唾をのんで見守っていた仲間のクルー達は一様に安堵した表情をしている。
アイリーンが勝手にモングラーと名付けた怪獣の片目を潰してからレヴィと再会を果たすまでの時間は10分程度。
その間はスターキッドAIによる自動操縦でモングラーを翻弄していた。
一口で翻弄と言ってもモングラーの前足による攻撃を避けつつ後方からモングラー目掛けて飛んでくる海王族艦隊の攻撃も躱さなくてはいけない人並外れた反射神経が要求されているのだけど当然の如くスターキッドAIは人ではない。
「一度この戦場から離脱して海王族艦隊の後方へ付くことを提案する」
副操縦席からピエロが言う。
「Aちゃんお願いね」
「ラジャーと言いたいのですけどキャプテンに報告、さっきからモングラーは目つぶしの恨み晴らさないと気が済まないみたいに僕しか相手してないんですよー、それに距離を取ろうとしても離れない、くっ付いてるみたいで怖いです~ぅ」
スターキッドAIが涙声を出す。
「海王族艦隊にこちらが離脱するまでの間だけ怪獣の注意を逸らせないか要請してくれないか」
ピエロがルビーに言う。
「海王族艦隊が後退していきます」
ピエロの言葉に重なるようにしてアシュラが報告してきた。
「ファーストドラゴン艦長より受電『我が艦隊被害甚大につき戦線離脱する貴公達の健闘祈る』です」
ルビーも同時に告げる。
「ちょっと待ってよ、あいつらレヴィがここに居ることをまだ知らない筈よ、教えなくっちゃいけないのかしらね」
「それが通信遮断されてるみたいです」
「電文も送れないのかしら」
「ブロックされてます」
「もう放っておかれませんでしょうか、下手に借りを作りたくもありませんですわ」
「僕だけじゃあこんな怪物倒せないですよー」
スターキッドAIが再び泣き言を言ってきた。




