230.帰還途中
スターキッドをアイリーン達が生活するホームに一番近いハッチへドッキングさせてバトルシップB99は太陽系目指してケンタウルス座アルファ星系を後にしている。
「しかしあれかしら通信入れて帰還の挨拶する先々でいちいち驚かれる度に説明するのにはもう疲れたかしらね」
伸びをしながら言う。
アイリーンとそのメンバーは今ドッキングしたまま待機しているスターキッドの中。
その通信席でこれから向かう先々の人へ連絡をしていた。
「僕だってそう思うよ140光年先にあるアケルナルまで行って帰ってきましたって言ったら誰だって驚くのは当たり前だ……よ」
昴くんが喋っている語尾でスターキッドAIが『のクラッカー』と言う合いの手が入ったけど誰も相手にしない。
昴くんは彼女の後ろに立って通信中に色々助言をしている。
言葉選びを間違えて相手を不愉快にさせた時は直ぐに誤解を解かなくてはいけないから。
「行ってきますって言ったのは3年前だったかしらね」
「皆は仮に都合のいいトンネルを見つけたとしても往復で300年は掛かるだろうからこれが本当に最後の挨拶になるんじゃないかって涙ぐんでいたものね」
「あの時オビス司令官にも別れの挨拶をしたのかしら」
「そうだよでもそのあと直ぐに司令官を辞めてアリオンさんと一緒にこっちへ来たんだよ」
「故郷に帰るから途中まで乗せてって言ってたのにあれから予定外の出来事が立て続けに起きて帰りそびれちゃってるみたいね」
「謝りに行ったときは笑っていたけどね、本当に悪いことをしたと思っているよ」
「まあハネムーンの代わりになる楽しい冒険の旅ができたと思ってもらうしかないかしらね」
「生きるか死ぬか瀬戸際の道を通っているのに御者は僕たちだからね、不安で一杯だったんじゃないかって思うよ」
「結婚は墓場への第一歩って言うじゃないかしら、そのくらいの試練は朝飯前みたいな感じで乗り越えられなくては困るかしらねぇ」
アイリーンがイノマンのポーズをして締めくくる。
「立派な考えを持つようになっていつの間にか君も思慮深い大人になろうとしているんだな」
いつの間にかピエロがコクピット後方出入口横に立っている。
(おかしいわね、お酒を飲んでるはずがないのに言ってることがくさいわ)
アイリーンは彼がいつからそこに居たんだろうと思う。
「あなた倉庫の片付けとか言っていたけど終わったのかしら」
「ああ、損傷個所がないかの確認だな、ついでに片付けと掃除も少しだけどしておいた」
「損傷個所って何かありましたっけ」
「アケルナルでの戦闘の時に色々残骸やらを積み込んで敵にぶつけたと言っていただろう、たとえ浅い傷だろうと腐食が進行するようであれば何らかの処置をしておく必要があるからな」
「ピエロさんありがとうございます」
スターキッドAIが深々とお礼を述べる。
「それでそのような傷はありましたか」
昴くんは自分も見ているのに二度手間じゃないのかなと思いながら聞く。
「不具合を発生させるようなものはなかったかな、しかし、木箱とかコンテナが残っていたがあれは再利用しようとして残しているのかな」
「そうですよ、一見してゴミと分かる物はリサイクルポットに入れましたけど木箱やコンテナは中に何が入っているか分かりませんからね、時間に余裕ができたら確認してどうするか決めようと思っていたんです」
(きっと開けて中を見たんだよな、僕が最初に見たかったのになあ)
昴くんは少し不機嫌になった。
「まさに英断だな、壊れかけた木箱が目に付いてこのままでは危ないと思って中身だけ取り出すことにしたのだけどな。まあ許可もなく勝手に開けることには罪悪感を持ったんだが事後報告でも問題ないと判断したんだ」
そう言って懐からハーフサイズのウイスキーボトルを取り出して見せる。
「そ、それはお酒なのよね、あなたもしかして飲んだんじゃないかしら」
瞳を輝かせたアイリーンが今にも垂涎しそう。
「まあ、酒だとは分かっていたけど飲めるかどうかは飲んでみないことには分からないからな、どこかの誰かが後先考えなしに口にして倒れても困るだろう」
(そんなことをするのは愛鈴しかいないけどピエロさんは誰もが納得する良い言い訳を考え付いたね)
昴くんはお酒に目がない二人を横目遣いで交互に見た。
「うちも倉庫へ行ってくるわね、危ないものがまだあるかもしれないわ」
(君が一番危ないんじゃないかなあ)
「ダメだよ愛鈴、今から艦橋へ行って石橋艦長にこれからの事を聞くんだろう、だから別の機会にしようよ」
とりあえず説得してみる。
「そうね仕方がないわね、それでピエロはそれを見せびらかすためだけに持ってきた訳ではないかしら」
「もちろん、これの価値を分かってもらうために持ってきたんだよ、ルビー角砂糖を貰えるかな」
「小皿に角砂糖を1個乗せれば宜しかったのですよね、それでは休憩室へ移動しましょうか」
ルビーはピエロが何をするのか心得てるみたいに言う。
角砂糖を置いた小皿を休憩室のテーブルに置く。
「そういえばここにタバコを嗜むのは誰も居なかったな」
(この中でもしタバコを吸いたいなんて人が居たらそれはピエロさんだけなんじゃあないかと思うよ)
昴くんが心の中でそう呟いた。
「タバコなんて有害あって1円の利もない物はこの世から抹消すべきと考えるわ」
(愛鈴そこは『百害あって一利なし』って言うんだけどなあ)
昴くんはアイリーンが言い間違えた事の方がわりやすいんじゃないかと思い口に出さない。
「火が必要だったら、これではなく……こちらをどうぞ」
ルビーがエプロンの前ポケットから引き出した手に持つ蝋燭を引っ込めてチャッカマンを取り出す。
アイリーンと昴くんが顔を見合わせ笑いが吹き出すのを我慢している。
(このギャグが分かるのは僕たちだけだよな)
そう思っているとダイムとセントも顔を赤くして我慢していた。
「じゃあ始めるから近寄ったら危ないですよー」
ピエロが何かを感じ取った様でピエロみたいな大仰な仕草をしながら言う。
角砂糖に瓶からお酒と思われる液体を注ぎ直ぐ火を近づける。
ボン!
そんな音がすると同時に周囲が青白く光り熱風を伴い勢いよく燃えた。
「お酒じゃなかったのかしらね」
アイリーンががっかりしたと言いたげに肩を落とす。
「武器にもなるアルコール度数85%の上等な酒には違いない」
「そんなのただの危険物じゃないですか」
「幻の銘酒となっているれっきとした酒だ、まさかこんな所で手に入るとはな」
「ゴックン」
「愛鈴ダメだからね、こんなのを飲むのは自殺志願者と一緒だからね君はそんなに愚かじゃないよね」
「そのくらいのことわかってるわよ、ストレートでなんか飲まないわ……いいえ全くこれっぼっちも飲みませんわ、でも幻って言われているのなら香りぐらいは味わっても良いんじゃないかしら、ほら昴くんもこんな機会は二度とないかも知れないんだから後学のために匂いを嗅いでも罪にはならないかしら」
アイリーンは昴くんの目を気にして言い換えた上で味方に引き込もうと試みる。
(まあ、香りを味わう程度なら良いかも知れないな)
そう思い彼女に目で合図した。
「どうぞお召しあれ」
昴くんはアイリーンから紙コップを受け取って中を覗き込む。
そこには琥珀色した液体がたゆんでいて摩訶不思議な感覚に包まれ目が離せなくなっていく。
「あなたいつまでも匂いを嗅いでいたら酔っぱらってしまうわよ……ってもう手遅れかしらね」
アルコール耐性が全くない昴くんは最初の一呼吸で酔っぱらってしまっていた。
「ちょっとピエロ手を貸しなさいよ」
アイリーンが昴くんの手からコップを受け取るとふらつき始めたので片手で支えピエロに助けを求める。
ルビーがコップを引き受けてくれたのでピエロと二人で仮眠室のベッドに連れて行く。
コクピットに戻ってくるとルビーがまだコップを手にしたままだったので戻してもらう。
(中身が少し減ってるかしら)
ルビーに視線を向けてみる。
「じょ、蒸発したんじゃないかしら」
アイリーンの口真似をして胡麻化そうとした。
顔もほんのり赤い。
(こやつストレートで飲んだのかしらね)
紙コップを口に運んでちょびっとだけ唇につける。
「ブフォッ!? 何よこれ工業用アルコールじゃないかしら」
(唇がただれるんじゃないかと思うくらい痛いわ)
「これが幻の迷酒なのかしら」
ピエロを睨みながらコップを手渡す。
「そうだ今では手に入れることができないから幻と言われている」
紙コップを受け取ったピエロはそのまま一気に飲み干した。
「あっ!」
アイリーンが制止しようとしたけれど間に合わない。
「どうかしたのか」
「な、なんでもないかしら」
(あ~あ、間接キスになっちゃったかしらねぇルビー)
ルビーを横目で見るとさっきとは違う赤みを帯びた顔をしてるみたいな気がする。
「ちょっと良いことを思いついたかしら、これを持ってプローンに挨拶しに行きましょうよ」
「その前に艦橋へ行くんじゃなかったのか」
コクピットにはピエロとアイリーンの二人だけになっていた。
ルビーはいつの間にか居なくなっているみたい。
「そうね石橋艦長に会って来るかしら」
アイリーンは卓上モニターに自分の顔を映し出しひとしきり見た後で『よし!』と気合を入れて出ていく。
彼女を見送り一人っきりになったピエロは懐からハーフボトル瓶を取り出し直接口をつけた。
昴くんとピエロとアイリーン




