229.帰還前夜
アイリーンがお兄ちゃんと慕っていた昴くんの中で眠る石井光一の魂を新しいイノマンクローンに入れて蘇らせるため向かったエリダヌス座アルファ星アケルナルより帰って来ている。
目的地のアケルナル惑星bは北方星域星人が時空間移動を行うことができる妖精を育てるための妖精牧場になっていた。
アイリーンは彼らを救済するため惑星bに住む妖精の力を借り惑星毎のシュー・ウォッシュナビを行いその宙域から消失させている。
惑星bが現出したのはケンタウルス座アルファ星リゲルケンタウリに造られた人工惑星C2から5千万Km外側へ離れた場所。
人工惑星C2は東域宇宙和平維持連盟地球人保護派が地球人の移民先として西暦1790年に作り2032年現在も約1万人の地球人とアイリーンが後から連れてきた50人の妖精達が暮らしていた。
惑星bはカシオペア座カフ星人が開発していたのだけど管理は現地人に丸投げしていたので居住人口の正確な数は把握できていない。
シュー・ウォッシュナビでここに現出してからアイリーンは惑星bに住む皆が無事なのか心配になったので先日まで調査を行っていたピエロを再び向かわせていた。
その彼がいま戦艦B99のホームに帰ってきている。
戦艦B99は6年前に太陽系を北方星域星人の侵略から守った功績としてアイリーンが貰った新造戦艦で正式名称はバトルシップナインティナイン。
最初はそこのジャングル風呂付き客室を豪華な客室と呼び拠点にしていたのだけどダイムによってホームと呼ぶようになっていた。
「お帰りピエロ、惑星bの調査は順調だったかしら」
アイリーンが素早く声を掛ける。
「2日間では大したことは分からなかったがな、しかしまあ一番知りたかっただろう皆の無事は確認できたし、聞き取った範囲では生態系に問題は発生していない様子だった、あとは何もわからない事が分かったかな」
リゲルケンタウルス星系に来てから5日目の夕食前いつものようにみんながリビングへ集まり始めている中での会話。
「あっちに住んでいる皆の無事が確認できてほっとしたわ、でも何もわからないという事が分かったとはどういう意味かしら」
アイリーンは最初の挨拶でソファーから立ち上がり今ピエロと握手を交わす。
「惑星bに居た管理者だけどな本当に見て回るだけの管理者だったな、たとえば食料が不足気味になったり施設に故障が発生した時だけ通信機に話し掛けるといった感じだった、それらは通信履歴として残っていたのだがその他の記録らしきものは何もなかったな、証拠を何も残さない点に於いては賢い連中だ」
「通信で呼ぶとカシオペア艦がやって来るシステムなのでしょうか」
昴くんもアイリーンの傍に立ち握手を求めて手を伸ばした。
アイリーンと昴くんも今しがたリビングに来たばかりだけどその時ルビーは既に奥のキッチンで夕食の準備に取り掛かっていたみたい。
「通信傍受した北方星域の仲間の中で一番近くを飛んでいる艦が寄るらしいからなリザード星人が来たこともあったらしい」
「カフ星人が開発から管理までしてるんじゃなかったのかしらね」
「北方星域の共同体と思っていた方がいいぞ奴らを甘く見てはいけないという教訓は何回も味わっただろう」
「惑星bの彼らは僕たちが戦闘中に応援を呼ばなかったよね」
「あら、昴くんったら戦闘中は妨害電波を出しまくるのが常識かしら、指向性の近距離通信位しか届かないんじゃ応援の呼びようもないし下手をすれば敵に情報を渡すようなものだから普通はしないはずかしら」
「そうだったよね、僕たちが初めて会った時の印象も敵意丸出しじゃあなかったからね、もしかしたら彼らは最初から何かを期待していたんじゃないかと思ったんだよ」
「そうね、恐怖政治に怯えていたのかしら、だったら安心させてあげる何かが必要なんじゃないかしらね」
「愛鈴は北方星域星人が惑星bを取り返しに来ると思うかい」
「あいつらはヘビのようにしつこく追い掛けてくるかしら」
「ヘビが進化してトカゲになったんだからヘビよりしつこいと思うよ」
「昴くんそれは間違ってますですわよ、トカゲの足が退化してヘビになったと証明されています」
ルビーが飲み物が入ったトレーを持ってキッチンから出てきて言う。
「わあ、そうなんですね手足は進化の途中で得られるものとばかり思っていましたよ」
「先入観というものは間違った思考へ誘導するのに都合がいいからな捨てないと危険な目に遭わされるかも知れないぞ」
ピエロがトレーからコップを受け取り脅してくる。
「ピエロあなたもしかしてもうお酒を飲んでるんじゃないでしょうね」
泡立っているコップを指差しアイリーンが甲高い声で言う。
「だから先入観を持つのは良くないと言っている」
「なんて大声を出しているのですか、アイリーンさんも淑女でしたらもう少しおしとやかになられた方がいいと思いますよ」
ダイムの冷ややかな声がした。
声の方を見るとセントと石井光一も一緒になってリビングへ入ってきたところ。
二日前からダイムとセントが約束したように石井光一を伴って参加している。
そしてリビングにこのホームで生活する八人全員が揃った。
「みなさん今日も一日お疲れさまでした」
昴くんが口火を切る。
アイリーンはお兄ちゃんと慕っていた石井光一さん、最近では光一さんと言っているのだけど、その彼の視界に入ると人見知り病が再発したみたいに大人しくなってしまっていた。
だからもっぱら昴くんが話しを進めている。
「今日は特別な事をお話ししなければいけないのでこのまま進めさせてもらいますね」
「まあいつもの通りだな」
ピエロが了解したみたいな返事をした。
「では続けます、C2近くに現出したのはシュー・ウォッシュナビさせるのに来てもらっていた妖精さん達と地球人を送り帰すためだったのですけど全員がナチュラルエリアに残りたいと言い出しました」
「こんなことなら最初から太陽系目指して跳んでも良かったんじゃないかしら」
アイリーンが小声でぼそぼそっと愚痴みたいに言う。
「これもあれだな、連れてきたんだから帰りたいに決まっていると先入観を持ってしまった悪い例になるかな」
ピエロが空になったコップを振ったので氷がカラカラと音を立てている。
ルビーが気を利かせてお代わりを持ってきてピエロに渡す。
「これも私がお代わりを要求しているのだろうという良い意味での先入観を持ってしまったことによる行動だな」
そう言うと新しい中身が入ったコップを口に運ぶ。
「全くその通りだよ、事前確認をせずに目的地をセットした僕に責任があるよね」
「それは違いませんか、責任があるとすればその場に居た全員にだと思います。誰でもそのことについて指摘できたのにしなかったのですから」
セントが優しく言っているのだけど昴くんに向ける眼差しがきつい。
「全くその通りだよ自己犠牲は美しい反面使い方を間違えれば周りの人達に深い悲しみを与えかねないし時と場所によっては愚かな群衆を造り出すおそれもあるかな」
「そうだね自分に責任があるってことで簡単に終わらせようとしていたよ、ごめんなさい」
「自分に非があるのを素直に認めて謝ることができれば一人前の大人になった証しだな偉いぞ昴くん」
ピエロがいつになくお喋りで意味不明のことばかり口走っているのはお酒のせいだとアイリーンは睨む。
昴くんはピエロの発言による意図が汲み取れずキョトンとしてから話しを続ける。
「それでこれからのことなんだけど明日には太陽系に向けて出航しようと考えているんだけど良いかなあ」
昴くんはそう言うと皆を見渡し同意を求める。
「ここの防衛がなくなってしまいますね」
アシュラが不安そうな表情を浮かべた。
「その件については鹵獲したカシオペア戦艦の修理が終わったのでそのままここに残す事にした。C2で生活している地球人は基地で訓練を受けたベテラン揃いだからな軍隊任務に復帰させるのには丁度良いだろう、それから惑星bに住んでいる地球人の中から優秀な人材を選抜して教育を行いこれから新設する部署へ配置する予定にもなっているな」
ピエロの事後報告。
地球人保護が始まった当初から現在も続いていることだけど地球上で不憫な生活をしていたり死んでしまった子供達の中で優秀な人材やその魂をチルドレンサーチャーが見付け地球防衛基地へ招き入れている。
それからそこで1年間の教育を行い適性に合った適所へ配置され更に立派な宇宙人目指して働いていく。
彼ら彼女らが30歳を過ぎたあたりで選考が行われ該当者は移民船でC2へ送られている。
だから戦艦に乗るのも軍隊に再雇用されたみたいなもの。
「カシオペア戦艦を残すのでしたら少しは安心です」
「それだけではなく、惑星bには自衛のための対艦レザーキャノンがあったぞ」
ピエロが声を低くして言う。
「そんな物が備わっていたなんて微塵にも思わなかったわ、何であの時撃たなかったのかしらね」
アイリーンもピエロに合わせたような小声でぼそりと言って横にいる昴くんの腕を摘まんだ。
「対艦レザーキャノンはいつでも撃てたんでしょうか」
昴くんがアイリーンの意を汲んで質問する。
「あの時、管制塔の会議室で会った六人の同意があれば撃てると言っていたな」
「あの方たち全員の同意が得られなかったのですね」
キッチンで夕食の準備をしているルビーが聞いてきた。
なかなか耳の聞こえが良いみたい。
でも彼女が包丁を振り回しながら喋っている姿を見た昴くんは当時の状況を思い出し苦笑いする。
「その通りだ、私達に味方してカシオペア艦を撃った方が将来のためには良いのではないかと意見が出て迷ったらしいぞ」
ピエロがイノマンのポーズをしながら言う。
ダイムと石井光一とルビー




